「座れ」。夫のDVはいつもその言葉から始まった。「どうしていいつけを守らないんだ」「口答えをするな」…正座してうなだれるばかりの妻に、それでも夫は激高し、手をあげた――折しもDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)施行から10年。しかしその被害件数は増加の一途をたどり、かつ陰湿化している。
都内在住のB子さん(36才)の場合もそうだった。
「結婚当初は夫はとても優しくて、周囲でも評判の“いい夫”だったんです。ところが、結婚半年後、帰宅前に食事の準備ができていなかったことをきっかけに夫の暴力が始まりました」(B子さん)
「いままで何してたんだ!」と大声の威嚇から始まり、ついには平手打ち。しかし、その後すぐに我に返った夫はB子さんに何度も謝り、二度と手はあげないと誓った。
「本当にショックだったんですが、夫が必死に謝る様子を見てると、許してあげないとと思ったんです。気が緩んでいた私にも落ち度がなかったわけじゃないですから」(B子さん)
しかし、それ以降、些細なことで夫はキレるようになった。ときには服のセンスが悪いと怒鳴り、またあるときには味噌汁がぬるいと罵声を浴びせた。平手はいつのまにかゲンコツに変わった。それでもその都度「もう絶対にしない」と誓う夫の姿に、B子さんは「私が信じてあげないといけない」と強く感じたという。
「あるとき、いつもなら手が出るタイミングで恐る恐る夫を見ると、体をブルブルと震わせていたんです。私が悪いのに我慢してくれているんだと考えると、申し訳ないような気がしてきました」(B子さん)
しかしその後も夫の暴力はやまず、ついにはB子さんが流血し、救急車を呼ぶ事態にまでなった。しかしB子さんは「こんなことするつもりはなかった。本当にごめん」と涙ながらに何度も口にする夫の姿を見て、またしても彼を許してしまう…。
このB子さんの件にDVの特徴があらわれていると夫婦・家族問題コンサルタントの池内ひろ美さんはいう。
「多くのDV夫は暴力を振るった後、一時的に大人しくなったり優しくなったりする。この期間を『ハネムーン期』と呼びます。でもその間に自分を抑制するストレスがどんどんたまっていき、あるときに沸点に達する。爆発のきっかけは何でもいいんですが、妻は『夫は我慢したのに爆発させた私が悪い』と思い込んでしまう。『爆発→ハネムーン→抑圧→爆発』という負のサイクルにはいったら、第三者に相談しないかぎり抜け出すことは難しいですね」
池内さんはDVを理解するうえでのキーワードのひとつに「共依存」があるという。
「共依存とは、互いに依存しあう関係性のこと。DV夫には『これはしつけ。相手のためなので暴力を振るっても絶対に受け入れられる』という妻に対する甘い考えがあり、一方で妻は『私が逃げたらこの人は駄目になる』と思い込む。一方的な暴力なら誰しも逃げることを選びますが、共依存になると逃げ出せない。B子さんもまさにこのタイプなんです」
※女性セブン2011年12月1日号