TPPの問題が日本を二分している。交渉参加が決定しても、国内の反対派は簡単には矛を収めないだろう。推進派でさえ「交渉に参加しても、途中で離脱できる」などと弱腰のことを言い始める者たちがいて、混乱が長引く様相を見せている。だが、作家の落合信彦氏は、日本はTPPに参加しなくてはならないと強く信じているという。以下、落合氏の指摘である。
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こういった問題について、日本人は「受け身的」に考える傾向が非常に強い。農協などの圧力団体が「TPP参加によって、日本の農業が壊滅的な打撃を受ける」などと脅迫めいたことを主張し、選挙で彼らの票が欲しい政治家がそれをそのまま喚き散らす。
だが、本当に彼らの主張が正しいのだろうか?
私は常々、21世紀を生き抜くために必要なことはスピードと競争心だと主張してきた。その2つの前提となるのが、日本人に欠けている「攻撃性」である。
私は世界各地の食材を口にした経験があるが、日本の農作物の品質の高さは刮目に値する。海外の友人たちの話を聞いても、日本のリンゴや梨といった果物、キャベツやナスなどの野菜について否定的な評価をする人はいない。むしろ、「もう自国の果物や野菜を食べる気になれない」と言うくらいだ。
つい先日、タイのバンコクを訪れたが、高級スーパーマーケットの棚に並ぶ日本米の価格はタイ国産米の3~5倍の値段がついていた。それでも、売れ行きはすこぶる好調。
中国の富裕層や北朝鮮のロイヤル・ファミリーも、口にしているのは日本産の高級米だ。ニューヨークのステーキ・ハウスで圧倒的一番人気なのは、KobeBeef(神戸牛)である。
TPPに参加したら、日本の市場がアメリカの農業の食い物にされる、などと言われているが、これだけの高品質を誇っているのだから、むしろ相手国の市場を奪うチャンスだという攻撃的な発想がなぜ持てないのだろうか?
私からすればフロリダのオレンジ農家などはむしろ日本の高品質なミカンや伊予柑、デコポンなどがアメリカの市場を席巻することを恐れているのではないか、とさえ思える。
日本の政治家は、被害妄想的とも言える受け身的な発想で思考停止に陥っているロビー団体におもねるばかりだ。だが、本当の政治家ならば、「日本で生産されているのは、世界で最も優秀な食べ物だ。あと必要なのは、世界との競争に足を踏み出そうという、あなたたちの意志だけだ」と説得をすべきではないのか。
競争を前提とする資本主義社会に生きていくならば、答えは明らかである。どの国にも富裕層はいる。TPPは、日本の農業がさらなる高品質による差別化を図り、世界へと打って出るチャンスだとさえ言える。
※SAPIO2011年12月7日号