98才で詩集を出版した柴田トヨさんをはじめ、91才でCDデビューをしたピアニスト、97才の現役カメラマンが活躍し、いま後期高齢者と呼ばれる世代のなかでも先輩格の“オーバー90”世代が注目を集めている。
そのなかでも人々を惹きつけているのが、絵日記を描き続けている93才の竹浪正造さん。竹浪さんの著書『はげまして はげまされて 93歳正造じいちゃん 56年間のまんが絵日記』(廣済堂出版 1365円/税込み)は子供たちの成長、巣立ち、妻の病気、そして別れ…。日常のちょっとしたできごとから、人生の転機までを温かく描いた56年分の絵日記がまとめられている。家族の絆について改めて考えさせられる一冊。発売1か月で26万部を突破した。
56年にわたり綴られた家族とのほほえましい日常の風景が、3.11の震災以降、家族との絆の大切さを再認識した日本人の心に響いたのだろう。
無地の大学ノートに、2Bの鉛筆で下描きをし、筆ペンでなぞり、色鉛筆で色を塗る。日々の備忘録であり、また心情を映し出す鏡である絵日記を描き始めたきっかけは、長男の正浩さん(59)だった。正浩さんが3才だった1955年の元旦を迎えるときに「絵日記で成長の記録を残しておけば、成長したとき感謝してくれるんじゃないか」と思い立ったという。
もともとマンガ好きで、子供時代は『少年倶楽部』に夢中になり、『のらくろ』などに憧れ、一時は漫画家を目指すことも考えたそう。
そして、56年間、ノート2297冊分―その間1日たりとも休まずに描き続けてきた。
「実は2000冊でやめようと思ったこともありましたが、いまは“記憶より記録”“継続は力なり”の信念で続けるつもりです」
絵日記にも度々登場する妻・れいさん(享年62)とは長女の聖子さん(享年62)を身ごもる中、終戦直後にともに当時の朝鮮から引き揚げるなど、激動の時代を互いにはげましあいながら生き抜いてきた。
その最愛の妻を亡くした日もノートを開いた。
「あのときは、ただただ机に向かって自分が見たことを描いていたということしか覚えていません。呆然としていたんだと思います。妻が亡くなった以降も、よく夢に妻がでてくるので、そういうときは日記に描いています。忘れてしまっていることも多いですが…。夢のなかでいいからもう少し妻と話したいと思うこともあります」
※女性セブン2011年12月1日号