中国経済を悩ます最大の問題がインフレだ。インフレを抑えようと金融を引き締めれば景気の悪化は免れない。拓殖大学客員教授の石平氏が中国のインフレ事情を解説する。
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ここ数か月間、中国の消費者物価指数(CPI)は高どまりしている。中国国家統計局が10月14日に発表したデータによると、9月の消費者物価指数は、前年同月比で6.1%増。地域別に見ると、都市部が5.9%増、農村部が6.6%増となっている。また、商品別に見てみると、食品価格が13.4%上昇。中でも中国人の食卓になくてはならない食材である豚肉の価格は、43.5%という大幅上昇を記録している。
約2億~3億人とされる貧困層はもちろんのこと、中産階級にとっても生活必需品の物価高騰は深刻な問題である。
昨年来、中国で注目されている新造語に「菜奴(ツァイスウ)」というものがある。少しでも安い野菜を求めて奔走する、「野菜の奴隷たち」である。
中国メディアで取り上げられる菜奴たちの生活は涙ぐましいものだ。
例えば重慶市では主婦が毎日、自転車で市内の野菜市場を巡っている。重慶は山城(山の街)と呼ばれるほど山がちな土地だが、最も安い値をつけている市場を探すため数十キロも走り回る女性もいるという。インターネットの掲示板などが利用され、主婦同士が情報を交換。どこに、どの時間帯に行けば、最も安い野菜があるかを必死で調べているのだ。
さらに最近では、「あの市場が安い」という情報が出回った途端、消費者が殺到し、野菜が品切れになったり市場が値上げしたりするのだと彼女らは嘆いている。
貧困層はさらに悲惨だ。
彼らは野菜を買わずに、自分で栽培している。近くに空き地を見つけてはネギやニンニクを植え、それを収穫して食べる。もちろん、中国で土地の私有はできない。要は自分の土地ではないところで、誰の許可も得ずに無断で栽培しているわけだが、背に腹は代えられない。
※SAPIO2011年12月7日号