20年間勤務した会社を退職する最後の出社日、「長年の恨み」と社長のB氏(50歳)を殴り、現行犯逮捕されたA氏(62歳)は、警察で「長年の恨みがたまって」と犯行動機を語ったという。A氏の「長年の恨み」とは、そしてそれを最後に爆発させた「きっかけ」とは、いったい何だったのか。
ある社員は、事件の背景をこう分析する。
「Aさんはベテランで、年下の社員によくしてくれる面倒見のいい先輩でした。ただ普段から社長については、『お前が入ってくる前から、いろいろあるんや』とはいってました。具体的に何が、とは話しませんでしたが、『ムカつく、あいつだけは許されへん』とか、『いっぺんガツンといわせたる』とか。でもまさか、本当に手を出すとは思いませんでした。驚きましたよ」
長年にわたって、A氏が社長に対して何らかの不満を溜め込んでいたことは確かなようだ。 会社の近くにある飲食店の女性は、A氏の印象を、「黒髪の短髪で、日焼けして男前な感じ。ちょっとだけ俳優の渡瀬恒彦に似てるかも」と語った。A氏の知人曰く、「体格ががっしりしているから一見とっつきにくく、難しいことを考えているように見えるけど、実は気さくな人」だという。
周囲の話からは、肚に一物あったことはうかがえるものの、いわゆるキレて取り返しのつかないことをする今時の若者のようなタイプとは全く違うようなのだ。
一方、B社長の知人は、彼の人となりをこう話す。
「B君は三代目のオーナー社長だけど、殴られるような人じゃないよ。初代は彼のお父さん、次がその弟でB君の叔父にあたる。それからしばらくしてB君に代替わりしたんやけど、まだ50歳で若いやろ。彼が生まれ育った頃には会社は大きくなっていたから、お父さんたちの苦労を知らんやろな。古い社員にしたら、先代の社長とは、ちょっと変わってくるわなあ」
同社をよく知る取引先の男性は、「俺はB社長は好きじゃない」と率直に語る。
「あの人は、年上に対しても、人を小馬鹿にするときがある。言葉の端々や、ものの言い方、口ぶりとか表情でそう感じる。あそこは大きい会社だから、取引先がうちら中小の小売業やったりすると、ランクをつけて見下してしゃべってるように感じる。若い頃からあの会社にいるから苦労知らずで、よくいるお坊ちゃんという感じ。B社長の義兄が信頼の置ける人だから、うちは彼にお願いしている。彼が社長を継ぐんかと思ってたくらいやから」
周囲が語るB社長の人物像は、「苦労知らず」という点で共通する。実際には社長業は楽であるはずはないし、三代目ならではの苦労もあったのだろうが、周囲から「お坊ちゃん」と見られ、評判のいい義兄と比べられていた。ちょっとした言動が「気に食わん」といわれ、事件を誘発する下地はあったのだろう。
※週刊ポスト2011年12月2日号