国内

鳩山由紀夫、菅直人は大局観、胆力、人心掌握力も弱かった評

競争を嫌う社会では敗者復活はあり得ない。そして敗者復活のない社会ではすばらしいリーダーは存在しえない。挫折を味わい、敗北の中で自己を徹底的に鍛えるからこそ復活を成し遂げ、リーダーとして社会を牽引していくことができるのだ。歴史学者で東京大学大学院教授の山内昌之氏が解説する。

* * *
リーダーとして成功した人間は、いずれも敗北や挫折、屈辱、屈折といった試練をくぐっている。最新の拙著『リーダーシップ 胆力と大局観』(新潮新書)にも著わしたが、リーダーになるプロセスそのものが、同時に「敗者復活」への挑戦なのである。

戦後の日本政治を仕立てていった吉田茂と幣原喜重郎の2人もそうであった。戦中、吉田は英米派のリーダーとして軍に正面から反抗し、陸軍の憲兵によって投獄された経験を持つ。

外務大臣や内閣書記官長などへの就任もやはり陸軍に邪魔されて叶わなかった。外交官というとエリートのイメージを持たれるが、吉田はまさに挫折と弾圧の連続だった。しかしそうした苦節があってこそ、戦後、首相として米国と渡り合いながら日本をリードしていくことができたのである。

幣原も同様で、戦前は「幣原外交」と称される軍縮平和外交の指導者として陸軍と対立し続け、軍に追われるように政界を退く。だが戦後、内閣総理大臣として「敗者復活」を果たした。

岸信介は戦中、満州国国務院を牛耳り、東條内閣では商工大臣を務めたが、その結果、A級戦犯容疑者として逮捕され、公職追放という形で大きな挫折を味わう。岸に対する歴史的評価は分かれるにせよ、彼が戦後、首相として復帰していくプロセスは敗者復活でもあった。

鳩山一郎は戦後、首相指名を目前にしてGHQによって公職追放となり、追放解除直前には脳梗塞で倒れる。しかし、これらの非運にもめげず復活し、吉田と対決しながら執念で首相の座に就いた。

彼らは時代状況の中で敗北や大きな挫折を経験したが、それを糧として敗者復活を果たしたのである。

その後の池田勇人、佐藤栄作もまた、挫折や屈辱を経て首相となった。池田は熊本の五高から京都帝国大学に進むが、一高→東大という戦前からの大蔵省のエリートコースからいえば傍流中の傍流である。

しかも病気を患って休職や退職を経験し、同期に比べて後れを取り続けた。しかしかえってそのために、戦後、追放などの憂き目にあう同僚や先輩たちを尻目にのしあがっていく。大蔵次官から政界に出て初当選するとすぐに大蔵大臣になったが、これも挫折の中で鍛えられた粘り腰があればこそだろう。

佐藤は五高から東大法学部に進んだが、やはり傍流中の傍流の鉄道省の出身。しかも一高、東大の大秀才でカミソリと呼ばれた兄、岸信介と比較され、進む先々で屈辱や非運をなめてきた。政界に進出してからも佐藤は常に池田の後塵を拝する。彼の政界人生もまた挫折の連続だったが、首相としては8年にわたる長期政権を築いた。

挫折や試練を経てきたという点は、その後の三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)にも共通する。

彼らには、いずれも総理総裁になっていく準備段階で大きな挫折があった。そして挫折の中で驚くほど勉強し、自分が総理総裁になったら何をやるかを徹底的に考え、鍛えぬいていた。それは敗者復活のための必要条件であり、同時にリーダーシップを磨くことにもつながることだ。

しかし、小泉純一郎以後の自民党政権の3人の首相、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎はまず大きな挫折を知らずに育った人たちである。政権が民主党に移ってからも同様で、鳩山由紀夫も菅直人にも挫折はまったくない。政界の超御曹司で金の苦労もしたことがない鳩山はもちろんだが、菅も市民運動のエリートとして頭角を現わしたからだ。

拙著の『リーダーシップ』でも触れたように、鳩山と菅はリーダーとして不可欠な大局観も、胆力も、人心掌握力も身も弱かった。「為政者の覚悟」も持ち合わせていなかったため、普天間問題や消費税増税など日本の政治課題を何一つ解決できなかった。

※SAPIO2011年12月7日号

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン