50歳の社長を殴って62歳の男性が現行犯逮捕された事件が11月9日の読売新聞で報じられた。約20年間勤務した同社を退職する日に行われた行為に、ネット上では大反響を呼んだ。どんな状況でも人を殴れば犯罪になることは同じだが、現実的には退職の日に殴るほど“もったいない”ことはない。その行為のせいで退職金がもらえなくなるかもしれないからだ。
今回のケースでは、A氏は60歳の時点で退職金を得ており、以降は契約社員として定年延長されていたから事なきを得たが、普通の定年の場合はどうなのか。
労働問題を主に請け負う平松剛・弁護士が語る。
「傷害容疑で逮捕された場合、会社の就業規則があれば、懲戒事由に該当するでしょう。従業員の帰責性も重いので、理論上は懲戒解雇することができ、退職金の一部ないし全額が支給されない可能性があります」
最後に本誌は、A氏の自宅を訪ねた。近隣の住民によれば、妻と子との3人暮らしだという。インターホン越しに対応したA氏に、何がきっかけだったのかと問うと、5秒ほどの沈黙の後に「……もう結構です」とだけいうと、インターホンが切られた。そこには“スッキリした”というより、やはり後悔の念が感じられた。「社長を殴る」というのは、それほど痛快なものでもないようだ。
※週刊ポスト2011年12月2日号