インフレに悩む中国ではインフレを抑えようと金融引き締めを行なってきたが、その副作用は甚大だ。引き締めで銀行が融資を大幅に絞った結果、経営難に陥った中小企業がばたばた倒産しているのだ。拓殖大学客員教授の石平氏が倒産ラッシュに並ぶもう一つの大問題をレポートする。
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企業倒産ラッシュとともに、不動産バブルの崩壊がすでに始まっている。そもそも中国で不動産バブルが生じた主要な原因は何か。それは、前述した通貨の大量供給によって流動過剰が生じ、余ったカネが不動産に流れてきた点にある。
2009年、中国政府はリーマン・ショック対策として大規模な金融緩和政策を実施した。そのことにより、GDP(国内総生産)の2割以上に相当する9兆6000万元もの新規融資が行なわれた。カネの洪水はどこかに出口を探し、それが不動産投資だったとされる。投機的な不動産購入が増加し、結果として2009年と2010年の2年間で不動産価格は約2倍に跳ね上がった。
まず、価格暴騰は住宅ローン返済の重圧に押しつぶされる人々を生んだ。
実例を挙げよう。上海で新聞社に勤務する編集者のケースである。この男性は上海市内に300万元(約3600万円)の物件を30年ローンで購入した。毎月のローンの返済金額は1.5万元。しかし、男性の収入は月に2万元程度。月収のなんと7割以上をローン返済に充てているのだ。光熱費や水道費・食費を払えば、給料は残らない。
こういった人々は不動産の奴隷すなわち「房奴(ファンヌゥ)」と呼ばれる。2009年の夏には『蝸居(カタツムリの家=手狭な家の意)』というタイトルのTVドラマが中国で大ヒットした。上海に住むサラリーマン夫婦が双方の両親から借金してマイホームを手に入れるが、毎月6000元(約7万2000円)のローン返済に苦しみ、高利貸から借金をするなどして家庭生活が破綻していくという物語だ。多くの家庭が似たような体験をしているからこそヒットしたと言われている。
そうした問題がある一方で、今年になって中国の不動産市場はバブルから冷え込みに転じている。
中国政府が金融引き締め策を実施し、また昨年の秋ごろから不動産投機を制限する政策を実施したためだ。例えば、2軒目の家を買う人にはローンを認めないなど、住宅ローンや開発ローンの貸し出しを厳しくする制限を盛り込んだ。これにより住宅市場では資金の調達が難しくなった。北京では今年6月時点で売れ残りの不動産在庫面積は3300万平米以上。時価では約1兆元(約12兆円)という額になる。ちなみに北京ではこれまで「金九銀十」といわれ、9月と10月は1年間で最も不動産が売れる時期だった。
しかし今年は9月の販売も低迷に終わり、10月からは一部の不動産業者が価格を大幅に値下げして売り出している。例えば10月24日、北京市の朝陽区に位置する住宅地では、分譲物件が2割下げて売られた。
※SAPIO2011年12月7日号