あるときは首相を決めるキングメーカー、またあるときは巨人の不振をぼやく御意見番、にしてメディア界のドン・渡辺恒雄氏。なぜ彼は、そこまでの権力を持っているのだろうか? そこには各方面への幅広い人脈も影響している。
そのなかでも渡辺氏の「夜の人脈」といえば、何といってもホテルオークラの料亭・山里で定期的に行なわれる政治家との会合「山里会」が有名だ。渡辺氏の主催で記者クラブメディアのOBや幹部が集まり、首相をはじめ政権幹部が招待される。渡辺氏の政治とメディアに対する権勢を誇示する場として機能してきた。
10月21日夜、同所で開かれた会合では、渡辺氏のほか、橋本五郎(読売)、芹川洋一(日経)、岩見隆夫(毎日)、早野透(元朝日)の各氏ら大マスコミの重鎮が顔を揃えるなか、野田首相が姿を見せた。民主党政権の首相としては初めて山里会に参加した野田氏は、TPP参加問題で慌ただしい最中にもかかわらず、約3時間も滞在し、渡辺氏らの進言に耳を傾けた。官邸に戻った首相は、「会食は有意義なものとなったか」と聞かれ、こう答えている。
「おかげさまです」
何気なく発せられたように見えるこの言葉の真意を解説するのは、渡辺氏に親しい政界関係者だ。
「渡辺氏は菅降ろしが取り沙汰された5月末の時点で、『次は野田君だ』と断言していた。『彼のお父さんは自衛官だし、彼も苦労人だろう。タンゴやカツも野田は素晴らしいと評価しているし』ともいっていた」
タンゴとは前財務事務次官の丹呉泰健氏、カツとは現次官の勝栄二郎氏のことである。 丹呉氏は財務省から読売新聞の社外監査役に天下りし、渡辺氏と毎日のように情報交換する最側近のブレーン。勝氏も渡辺氏とはかねて親しく、現政権では「影の首相」として、絶大な影響力を発揮している。
「渡辺氏と財務省は、一体となって野田政権の誕生を後押しした」(同前)
読売新聞は、政権誕生から増税路線、TPPまで一貫して野田氏を支持している。野田政権が国民無視で政治を暴走させる背景には、メディアと官僚の“最高権力者”の結託があったのだ。野田首相の「おかげさまです」の嫌らしい響きはそこからくるものだ。
山里会の後、赤ら顔で出てきた渡辺氏は「俺は野田内閣支持だから。支持するという上で、いうべきことはすべて申し上げた」と上機嫌に語った。
※週刊ポスト2011年12月2日号