そもそもTPP(環太平洋経済連携協定)とは何なのか。推進派も反対派も議論ばかりは百出するが、その本質は何なのか。ポイントとなるアメリカの交渉力について、大前研一氏が解説する。
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アメリカは、貿易交渉ではいつも「貿易慣行がフェアならば、アメリカの企業や商品は勝つ」と思い込んでいる。しかし、それは大きな勘違いだ。
たとえば、これまで日本はアメリカとの農業分野の貿易交渉で、牛肉、チェリー、ピーナツなどの市場をこじ開けられた。ところが、牛肉はオーストラリア産、チェリーは安いにもかかわらず山形のサクランボに太刀打ちできなかった。ピーナツに至っては市場開放した結果、中国産が大量に入ってきたが、アメリカ産は全く入ってこなかった。
半導体も同様だった。日米貿易摩擦で日本は半導体の2割を輸入する羽目になった。ところが、アメリカが作っている半導体は軍事用で、日本が必要とする民生用は作っていなかった。インテルやテキサス・インスツルメンツなどはすでに日本で生産していたので、輸入扱いにならない。
そこで日本企業は窮余の一策として、韓国企業にノウハウを伝授し、韓国から輸入することにした。アメリカとの約束は「輸入を2割にする」というだけで、「アメリカから」とはなっていなかったからだ。その結果、日本企業は韓国企業に寝首をかかれ、半導体で惨敗する羽目になってしまった。
アメリカは交渉の時は抜群の力を発揮するが、要求が通ると興味を失い、その後に成果がなくても、フォローもしなければ怒ったためしもないのである。だから私は当時のUSTR(アメリカ通商代表部)のカーラ・ヒルズ代表に「あなたたちはタフな交渉をするが、成果は全く上がっていないじゃないか」と文句をいったことがある。
すると彼女は「缶を開けるのは私の職務だが、フォローするのは私ではなく商務省の仕事だ」と答えた。実に不思議な国である。
※週刊ポスト2011年12月2日号