読売新聞グループ本社会長であり「戦後最大の政治記者」と称される渡辺恒雄氏の、もう一つの顔が「プロ野球の御意見番」だ。しかし、彼にとってはスポーツもまた、権力の材料でしかなかった。江川入団問題が起きた当時、渡辺氏は驚くべき野球オンチだったことを、本人が明かしている(『BRUTUS』2009年7月15日号参照)。
阪神が指名した江川氏と当時巨人軍投手だった小林繁氏をトレードする際、引退すると言い出した小林氏の説得にあたった渡辺氏は、「僕は野球を知らないから、代理人と小林くんの区別がつかない」という。
「『よく考えなさい。野球生命を絶つことはないんじゃないか』と、いろいろ説明したけど、どうも相手がちんぷんかんぷんで。逆のほうにいたのが小林くんだったというね」
間違えて代理人を説得していたというのだから呆れるほかない。スポーツジャーナリストの玉木正之氏も苦笑する。
「ほかにも、『バッターは三塁へ走ってはいかんのか?』と聞いたり、二死走者三塁で打者が内野ゴロを打ち、一塁でアウトになったときも、『バッターが一塁でアウトになるよりも走者のほうが早くホームへ帰ってきた。なぜ点数が入らんのか』と怒ったりしたといいます。渡辺氏はプロ野球のルールも知らないし、公共の文化だという意識が全くない。必要なのは読売の利益だけなんです」
※週刊ポスト2011年12月2日号