日本人の死因第1位が、悪性新生物、つまり「がん」であり、現在では、3人に1人ががんで死亡している。世界的に見ても、がんが死因トップであることは同様で、世界保健機構(WHO)によると、全死亡者数の約13%、実に年間760万人が、がんで死亡(2008年発表)。しかし、あきらめるのはまだ早い。
「世界中のがんの20%以上は、“感染”によるもの。さらに、その半数にあたる約10%はピロリ菌感染による胃がんです。ピロリ菌感染を予防・治療さえすれば、胃がんは限りなく消滅に近づけられるのです」
東京大学で、微生物学の研究を行なう畠山昌則教授はこう断言する。日本における胃がんの新規登録患者は毎年約8万人、死亡数は約3万3000人(国立がん研究センター がん対策情報センター)にも上る。
日本ではすでに、一部の自治体や企業が、ピロリ菌感染を血液で調べる「ABC検診(※)」を導入し始めている。ピロリ菌専門の外来を設け、積極的に除菌治療を推進する動きもある。
東海大学医学部・古賀泰裕教授は、LG21という乳酸菌の作用でピロリ菌を抑える研究を行なっている。
「LG21乳酸菌入りのヨーグルトをピロリ菌陽性者31名に8週間、継続摂取してもらったところ、ピロリ菌数が有意に下がったことが確認できました。同時に、胃の炎症の改善がみられました」(古賀教授)
この研究について、畠山教授は、こう評価する。
「“菌をもって菌を制す”ことは、クレバーな手法といえるでしょう」
日本人のピロリ菌感染者は、人口の半数にあたる約6000万人。高齢者ほど感染率は高く、50代以上では約7~8割といわれる。さらに、人口分布中最多の団塊の世代が今まさに、“胃がん適齢期”に突入。このままでは、今後10~20年は、胃がんの発生数が増加することは想像に難くない。
ただし、「ピロリ菌さえいなければ、胃がんリスクは限りなくゼロに近づけられる」ことも事実だ。ある疫学調査によると、ピロリ菌感染者が死亡するまでに胃がんに罹患する確率は約10%。この数字を看過するか、危機意識をもって除菌に取り組むか。その選択によって、多くの日本人の未来が大きく転換することは間違いない。
(※)「ABC検診」
かつてはバリウムを飲み、X線写真で判定する胃がん検診が主流だったが、最近登場した「ABC検診」では、血液検査によって、ピロリ菌感染を示す抗体の有無とともに、胃粘膜縮小マーカーを測定し、危険度に応じてAからCの3段階に分類。採血のみで簡便なうえ、自費診療ながら4000~5000円程度で受けられる医療機関も多い。
※週刊ポスト2011年12月2日号