医師が犯してはいけない最大の罪は誤診だ。しかし現実に医療の世界では、誤診が今も後を絶たない――。脳神経外科医で森山記念病院の堀智勝名誉院長は苦渋をにじませた。
「医師の思い込みが誤診を生みます。私の知っている例では、ある脳神経科医が、頭痛ばかりか首にも痛みを訴える急患を、筋緊張性頭痛だと決めつけてしまいました。ところが数日後、患者さんはくも膜下出血で死亡してしまいました」
千葉県がんセンター・前立腺センターの植田健泌尿器科部長は、誤診に繋がる別の面を指摘する。
「医師にはプライドが高い人が多い。そこに手術件数の豊富さや大病院での実績が加わると、最新の診断機器による結果が一部分からなくても、気軽に周囲の医師へ質問したり、助けを求めたりできない。あるいは地位の高さから助言をしてくれる仲間がいないという状況にも陥ってしまいがちです」
医師の多忙さが誤診を生む温床ともなっている。
「一人で診察しなければならなかったり、雑務も含めて忙しい医師は、学会に参加できる機会が限られ、医学雑誌や論文を読む時間もありません。これでは最新知識を得るチャンスが少なくなります。また、外来や病棟での多忙さから、患者の個別対応が遅くなることがあります。そのため、重篤な病気の兆候を見逃すことになりかねないのです」
こういうケースは、地方の小さな民間病院に勤め、一人で働く若手の医師に多いという。
ジャーナリストの富家孝医師は、40代の中堅どころの医者、とりわけ専門科医に誤診が起こりがちと警鐘を鳴らす。
「専門医の自信から、他の医師の意見を求めることなしに、自分の経験だけで診断を下してしまう。中高年の患者が手足の痺れや視野狭窄を訴えたら、彼らは脳卒中を疑います。ところが、若い患者だと発生症例の少なさを理由に、頭から脳卒中じゃないと決めてかかるのがその典型です」
※週刊ポスト2011年12月2日号