病気が重篤であればあるほど、本人にそれを知らせるのは気の重い仕事だ。足尾双愛病院で長らく副院長を務めた篠田徳三医師は、がんや難病を患者に告知する際の葛藤を今も鮮明に思い出す。
「がんの場合、結果としてほとんどの患者に告知します。だけどその一方で、知らないままでいたい、告知されると困るという患者さんや家族がいることを忘れてはいけません。傾向としては、働き盛りの方には本人に告知し、高齢者の場合は家族の意向を重視することが多かったですね」
告知に当たっては、当然ながら、とても気を遣う。
「私は、患者の性格にあわせて告知の方法を変えていました。ただ、医療の現場の声からすると、告知したほうが医師は楽になるんです。だって抗がん剤や手術など、がんをやっつける方法を明示できますからね」
だが、当然ながら告知される側の衝撃は何倍も大きい。絶望する患者を励ますのも医師の大事な仕事だ。
千葉県がんセンター・前立腺センターの植田健泌尿器科部長が語る。
「診療や入院生活の中で、個々の患者の人生観や病気への理解度などに関する情報を得て、患者や家族それぞれに対応した告知や説明方法、その後の対処を考えています」
とはいえ、予期せぬ結果が待ち受けることもある。都内の総合病院の外科医は、「告知をされたことで、自殺をする患者もいます」というし、脳神経外科医で森山記念病院の堀智勝名誉院長は「認知症の患者に病名を告げたら、一気に症状が進行してしまった例がある」。
都内の大学病院勤務の耳鼻科医はつぶやく。
「子どもの耳が聴こえないことを親に告知すると、ほとんどが号泣します。早く事実を知らせることで、人工内耳の検討をするなど、これからの人生に対応してもらいたいんですが……。中には『普通の赤ちゃんすら産めないのか』と自分を酷く責める親もいます。わが子を愛せなくなり虐待に走ることもありますね」
小児科医も語ってくれた。
「新生児の奇形や重度の障害を告げる場合には、出産直後の母親への影響を考慮し、まず父親に知らせるという配慮も必要です」
※週刊ポスト2011年12月2日号