いくら医師が生死の現場で働いているとはいえ、死に際してクールな態度をとる彼らに怒りを抱く患者の家族は少なくない。だが、医師もまた患者の死を深く受け止めていた――。
まずは足尾双愛病院で長らく副院長を務めた篠田徳三医師。
「どれだけ医師のキャリアを積んでも、死に対する想いが麻痺するようなことはありません。手術したのに助からなかったときの敗北感と悔しさ、これは一生消えることがない。ことに、その方の元気な姿や、人柄、人生観を知っていたら、ショックは倍加しますね」
篠田医師は外科医だが、彼らは患者の名前を忘れても、顔を見れば思い出す。
「まして再手術する患者なら、なおさらです。縫合跡に眼をやるだけで、自分の執刀だとわかるんですよ」
千葉県がんセンター・前立腺センターの植田健泌尿器部長は、自身が白血病に冒された経験を持つ。その経験と、医師としての体験が、否応なしに「死」を身近なものにしている。
「患者が亡くなれば、常に哀しい気持ちになります。自分が大病してからは、患者の死を通して死を身近に考えるようになりました」
埼玉県の精神科医は、反対に過度な患者への思い入れを排するべきだといった。
「それで失敗する医師も少なくありません。とりわけ新人医師は、自分の最初の患者に入れ込んでしまいがちです。私の知っている精神科医も、うつの患者の話を真剣に受け止め過ぎて、医師の彼がうつになってしまいました。また、うつの患者に自殺され、立ち直れなくなった医師もいます」
他の医師たちも、患者への感情移入が、治療に良い結果をもたらせるとは限らないと答えている。
※週刊ポスト2011年12月2日号