NHK朝ドラ「カーネーション」の、椎名林檎のボーカルが凝っている。ちょっとかすれたような高い声と裏声とを微妙に使い分け、大正から昭和にかけての時代のレトロ感が増幅される。だが、一方で、この主題歌に「そぐわない」「曲に違和感がある」といった声が出始めている。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が考察する。
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椎名林檎の最新シングル、『カーネーション』。
「Musicランキング.com(ロック部門)」でも、首位を競い合う勢いです。それもそのはず、今ぐんと視聴率を伸ばしているNHK朝の連続ドラマ小説『カーネーション』の主題歌として、毎朝テレビから流れてくる旋律なのです。
ドラマの舞台設定は、大正~昭和の時代、大阪・岸和田の商店街。その時空間にピタリあわせるように、主題歌もレトロ風の不思議な曲調です。バイオリンなどのストリングス、ハープの優雅な音をバックに、たゆたうような、ゆったりとしたワルツ調。
椎名林檎のボーカルが、凝っています。ちょっとかすれたような高い声と裏声とを微妙に使い分け、息づかいを際立たせ、ポツポツと語りかけるように歌う。それによって不思議なレトロ感がより一層、増幅されていきます。
この曲の雰囲気がドラマ空間にぴったりはまっていて、私には心地が良かったのですが、実は、このドラマのために書き下ろされた作品だと知り、なるほど、と納得。
ところが。新聞の投書欄やテレビ批評には、「ドラマの内容はいいのに椎名林檎の主題歌がそぐわない」「曲に違和感がある」といった声が、明確な根拠の示されないまま、いくつも掲載されています。
いったいなぜ、そうした批判が出るのか? その「違和感」は、どこから来ているのか? 興味をそそられました。推察してみるに、椎名林檎の「歌い方」に、是非が分かれる理由が潜んでいるのではないでしょうか。
ボーカルは意図的に声を高くかすれさせたり、言葉の音と音の間を切って、息づかいを残し、独特の不安感やざらつきを出している。それが、「わかりにくい」「そぐわない」「しっくりこない」という批判のもとになっているのでは。
はっきり言って、NHK連続テレビ小説の主題歌に、「あいまいさ」「不安感」を多くの人は求めていないのでしょう。もっとシンプルな「家族の感動物語」をそのまま歌いあげてほしい。そう願っている、正当派の欲求なのでしょう。
家族の物語に、不安感や神秘はいらない。そういう視聴者も多い。しかし一方で、不思議な主題歌が、より一層ファンタジー感覚を際立たせ、物語世界を膨らます効果を発揮してもいるのです。
お定まりの「理想の家族」像や現実世界とはちょっと離れた、「お芝居的空想空間」を、この歌の神秘性が力強く下支えしている、とも言えるのです。
みなさんはいかかでしょう? 私は後者の、「不思議感覚」に一票入れたいと思いますが。