「立川雲黒斎家元勝手居士」。生前から本人が決めていたという戒名は、いかにも立川談志(享年75)らしいものだった。「100年に1人の逸材」と呼ばれ、名人の名を恣(ほしいまま)にしたその名席ベスト5を、週刊ポストで『噺家のはなし』連載中の広瀬和生氏に挙げてもらった。
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【1】居残り佐平次
【2】粗忽長屋
【3】三軒長屋
【4】芝浜
【5】紺屋高尾
【1】は、「人間の業」を肯定する演目として、「家元の落語の集大成といえるもの」と広瀬氏は絶賛する。
「家元が作品を演じるということではなく、立川談志という身体を借りて、高座の上で極めていい加減な野郎が暴れまくる痛快さ。これが談志落語の神髄の一つ」
【2】は、家元の「この男は本当に粗忽なのか?」という分析で始まる。そのアプローチが、今までにない落語の地平を開いたと広瀬氏。
「慌て者とかそそっかしいというレベルではなく、主観が強いという言い方を家元はします。要は自分の頭のなかで、こうだと思ったら、他人がどういおうとそう思い込んでしまう人間の本質を浮き彫りにしている」
【3】「例えば、登場する鳶の頭のおかみさんが自分のことを『俺』という。一見、実に乱暴な表現ですが、一方でいい女なのです。乱暴で粗野だけど色気が感じられる。さらに鳶の若い衆らが演じるドタバタ劇が実に生き生きと江戸を感じさせる。これは家元が江戸の風を身体で理解しているからこそ、演じられたのです」
【4】「家元は『芝浜』を美談として演じていない。誰が演じても美談である演目を一旦疑ってかかって、壊して進化させていく。他の落語家との決定的な違いは、家元の魚屋夫婦は貧乏に耐えかねて本気で死のうとする。この辺りの真に迫った演じ方は本当に貧乏を体験した者にしか分からないものだと思います」
【5】「『伝統を現代に』という家元の考えが、同時代の女性が観客として『そうだよね、分かる、分かる』と共感できるものに昇華している。これは家元の大きな功績の一つでしょう」
※週刊ポスト2011年12月9日号