急成長を続ける中国が、軍事力を拡大し、東アジア諸国に攻勢を強めてきたのは周知の通りだ。そして、まずターゲットになっているのが台湾だ。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が中台の軍事バランスの現状を検証する。
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人民解放軍の増強とその装備と体制の近代化により、台湾海峡を挟んだ中国と台湾の軍事バランスは、すでに中国有利に傾いています。陸上兵力はもちろんですが、艦艇の数も中国の930隻に対し台湾は190隻、潜水艦は60隻に対してわずか4隻。航空機は3400機に対し420機。また、中国は核弾頭搭載可能なミサイルを1400基も保有していますが、台湾にはその種のミサイルは1基もありません。ちなみに日本にもありません。
この劣勢を少しでも挽回しようと、台湾は新型戦闘機F16C/Dを66機購入したいと米国に要望していました。しかしオバマ政権は今年9月に売却を見送り、台湾が保有するF16A/Bの性能強化のための関連部品の売却にとどめる方針を示しました。
オバマ政権は中国に気兼ねして最新のF16C/Dを売らないことにしたにもかかわらず、中国は猛反発しました。中国には譲歩しても意味はないのです。F16は1978年から運用が始まった戦闘機で、F16A/Bはその初期型です。同じF16でも、C/Dとではエンジンや機体構造も異なり、性能に大きな差があります。電子部品を入れ替えたとしても、C/Dには遠く及びません。
F16C/Dの売却によって、米国には87億ドル(約7000億円)の経済効果と1万6000人分の雇用が生まれると言われました。失業率の高さに悩むオバマ大統領にとって、願ってもない商談だったはずです。加えてF16を台湾に売却しても、台湾海峡における中国の優位性が崩れるわけではありません。にもかかわらず、オバマ大統領は、中国との摩擦を恐れて売却を見送りました。
米国の保守系シンクタンク、ランド研究所は「2020年までに、米国は中国の攻撃の前で台湾を防衛しきれなくなる」と分析しましたが、そうした事態を予見させるようなオバマ大統領の後ろ向きな決断でした。
※SAPIO2011年12月7日号