自国の防衛、資源確保、台湾攻略など中国の野望を阻止する最も大きな存在はアメリカである。中国の軍拡は絶えずアメリカを目標とし、世界覇権を狙う意図を思わせた。では、このまま中国が軍拡を続けていけば、「米中戦争」というシナリオはありうるのか。ジャーナリストの古森義久氏が解説する。
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中国の軍拡をアメリカがどうみるか。米側での中国の軍事力というテーマはより大きく、より重くなった。アメリカにとっての危険がより切迫して論じられるようになったのだ。
たとえば安全保障専門の有力シンクタンク「ランド研究所」はこの10月に「中国との衝突」という題で、米中軍事衝突の可能性やシナリオについての報告書を発表した。大手外交雑誌の『フォーリン・ポリシー』9月号は「中国との究極の戦争を避けるには」という論文を掲載した。
大手新聞にも「なぜアメリカは中国のミサイルを警戒すべきか」とか「中国は核兵器を何基、持つのか」というような見出しの記事が載るようになった。いずれも中国の軍事力のアメリカへの直接の影響をおもんぱかる認識である。その認識の先には米中戦争という究極の可能性の想定が浮かびあがる。
中国が歴史上でも画期的な軍拡を進めるのは、結局はアメリカを念頭に、あるいは目標に置いているからだという米側の認識はすでに複数の観点から伝えてきた。中国側の対米戦略のその基本部分についてヘリテージ財団のディーン・チェン首席中国研究員に改めて聞いてみた。
「中国の軍拡には自国の領土や資源の防衛、海外での権益の保持、台湾攻略など要因はいろいろありますが、あくまでもその『主要戦略方向』はアメリカだということです。台湾の制圧にしても、海上輸送の防衛にしても、資源の確保にしても、脅威が発生するのは究極的にはみなアメリカからだという状況に中国は直面していると、中国自身が認識しているのです。
だが中国は東西冷戦時の米ソ関係のようにはアメリカをみていない。また米中間には巨大な経済のきずながあります。だから中国の対米姿勢も複雑です。しかしそれでも実際の軍拡では明らかに米軍を主目標にした措置を次々にとっています」
米側とすれば、中国の対米軍事戦略は複雑ではあっても、なお最悪の非常事態として米中戦争をも想定せざるをえないという総括がここでも浮上してくる。
その最悪の可能性についてカーネギー国際平和財団のダグラス・パール副会長に見解を尋ねた。
「中国側はアメリカを相手に戦争をしても勝てないことを知っています。だから全面対決を決して望まない。アメリカ側も簡単には勝てず、相互にあまりに重大な損害を負うでしょう。その意味では米中戦争の可能性というのは少ないといえます。
しかし中国はアメリカが対中軍事行動を起こす動因を減らし、その能力を削ることに必死です。対中戦争の意欲を削ごうとするのです。からめ手からの非対称の作戦として米軍のシステムへのサイバー攻撃、宇宙での衛星攻撃、攻撃型潜水艦の増強、対艦ミサイルの配備などで米軍の対中抑止、戦闘の能力を減らすことを目指しています。
だが私はそれほど心配はしていません。米側には中国の軍拡に対応できる能力が十二分にあるからです。国防予算を無理に増額することなく、アジア・太平洋での前方配備の増強やグローバルな長距離攻撃能力の整備によって中国を抑えられます」
やはり米軍はまだまだ強大だというのである。中国はそれを知っており、負ける戦争をしかけるはずがない、という理屈だろう。
※SAPIO2011年12月7日号