【書評】『中国社会の見えない掟 潜規則とは何か』(加藤隆則著/講談社現代新書/798円)
【評者】嵐山光三郎(作家)
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中国は観光で行けば楽しいが、ビジネスで行くのは命がけだ。中国特有の考え方があり、通常の契約というものが成立しにくい。中国人は議論好きだが、そうやすやすと本音を語ろうとしないし、ほとんどの日本人は「外賓」か「日本鬼子」でしかない。
しかし、いったん同じ交際圏に属する仲間として受け入れられると、国籍をこえた朋友、兄弟として関係ができる。私にもそういう中国人の朋友が数人いるが、はたしてそれが本音かどうかはわからない。
筆者は二〇一一年六月から読売新聞中国総局長を務める中国通である。それ以前は上海支局長として活躍していた。中国へは二十回以上行って取材をしたが、そのたびに中国という国がわからなくなる。十月に上海、北京、ハルビン、長春と廻ってきた。この本を持参して読んでいたため、大いに助かった。
中国には「潜規則」という見えないルールがある。今年の七月二十三日には、浙江省温州で、四十人が犠牲となる高速鉄道の追突、脱線事故があり、日本では高い関心を集めた。ニュースを見た日本人は、大破した車輛の残骸を地中に埋める光景を見て、「なんというメチャクチャな国だろうか」と驚いた。
こうした疑問は、中国社会を支配する「潜規則」を知れば「なるほど」と納得するだろう。この本を読んだおかげで、私は中国高速鉄道の旅を楽しむことができた。
中国の社会主義は仮の装いで、上海や大連の刻一刻の変貌を見れば、すでに資本主義で、それも帝国主義の様相を呈している。中国は走っている。バブルがはじけるといわれつつも、信じられない速度で突っ走っている。あと二年はもちそうだ。
経済改革が不正行為を淘汰している。さらに、西洋近代思想が法による正義を説くのに対し中国では、情理が正義の尺度になっている。「合情合理」「入情入理」「通情達理」という中国式大岡裁判のような潜規則が存在する。現代の中国を理解するためには、この潜規則を頭に叩き込んでおくのが有効である。
※週刊ポスト2011年12月9日号