大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回は吉本興業の「面白い恋人」を巡る訴えから、「大人としての冷やされ方」を考えます。
* * *
本妻が恋人を訴えるならわかりますが、恋人が恋人を訴えました。北海道土産として人気のお菓子「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓が、吉本興業などに対して、人気急上昇中のお菓子「面白い恋人」の販売差し止めを求める訴えを起こしたのです。
「面白い恋人」がJR新大阪駅や関西空港などで発売が開始されたのは、2010年7月のこと。明らかに「白い恋人」を意識していますが、そっちを連想させつつ「なるほど、大阪だから『面白い恋人』か」とクスリとさせられる秀逸な商品です。
「白い恋人」側は「商標権の侵害」で「面白くない!」と憤っているようですが、「そんなに目くじら立てなくても」という声も少なくありません。私もそう思います。まあ、ほかにもデザインを似せて「○○の恋人」と名乗っているお菓子が、呆れるぐらい全国各地のお土産売り場に並んでいるので、そちらもひっくるめて警鐘を鳴らす意味もあるのかも。
きっと、法律的なことを言ったら「白い恋人」側に分があるのでしょう。法律はもちろん大切ですが、いろんな価値観が入り混じる微妙な問題のときに、法律をタテにして相手を糾弾すると、大人げない印象を振りまいてしまいます。
ここから先は今回のニュースとは関係がない一般論ですけど、法律という集団生活の約束ごとだけで“善悪”を判断できると思い込んでいて、ふた言目には「それは法律的には」と言い出すタイプとは、友だちになれそうにありません。
会社の中で、たとえば同僚が自分の「何となくパンチが足りない」という口癖を真似て冷やかしてきたとします。「寒いねー」と声をかけたら、「何となくパンツが足りない、ってか?」と返されたからといって、ムッとしてしまったら負け。
「うまいこというなあ。これから力を合わせて、社内で流行らせていこう!」と言えば、懐の深さを見せ付けることができます。しかも、しょせん相手は一発ギャグなので、すぐに言わなくなるでしょう。
とてもおせっかいな提案ですが、「白い恋人」側が、有象無象の似たもの商品に対して「ごっちゃにされたくない!」という気持ちを抱ていたのだとしたら、訴訟ではなく、いっそコンテストを開いてしまう手もあった気がします。「白い恋人の恋のライバルコンテスト」とか、あるいは「白い恋人の腹黒い恋人コンテスト」とか、そんな感じで。
そうすれば、公の場で「あいつらはニセモノですからね」と遠回しに知らしめつつ、主催者である「白い恋人」の存在感や本命の余裕を念入りにアピールできるでしょう。「新恋人募集」と銘打って新企画を募ったら、「ドドメ色の恋人」や「白いようで白くないちょっと白い恋人」みたいなのがいっぱい集まるという展開も楽しそうです。
石屋製菓さんにおかれましては、今からでも、そっちのほうへの路線転換をご検討いただくわけにはいかないでしょうか。いきませんね。ごめんなさい。