来年には中国共産党総書記に就任すると目される習近平・国家副主席は「金満中国」の指導者にもかかわらず、地方視察では「マイ枕」や「マイスリッパ」を持ち込むなど、意外に倹約家で質素な生活を送っていることが中国のホテル関係者の証言から分かった。
習副主席は2009年3月31日から4月3日まで3泊4日で河南省を視察した際、開封市の開元名都大酒店(ニューセンチュリーグランドホテル)に宿泊した。ホテル側は「次期最高指導者」として有名な中国共産党の最高指導者が宿泊するというので、最上階のスイートルームを用意したが、当日ホテルに現れた習氏の秘書から「通常のシングルルームでよろしい」と言われたため、仕方なく下層階のシングルルームを用意したという。
さらに、ホテル側が驚いたのは、習氏がマイ枕やマイスリッパばかりでなく、歯ブラシや歯磨き粉、シャンプーや石けんなどの洗面用具も持参してきたことだ。習氏はホテル側が部屋に用意していたアメニティ類は一切手を付けていなかったという。
中国の指導者のなかには地方視察をよいことに、地元の最高級ホテルに泊まり、最高級の料理や酒を用意させ、さらには女性まで要求するなど“酒池肉林”の贅沢三昧をする輩もいるといわれるが、習氏はいたって質素で、料理も一汁三菜ほどの粗食で済ませた。ただ、このホテルでは、習氏が陝西省での生活が長いことから、特別に、陝西名物の羊の肉のスープを供したという。
また、ホテル側は一般の宿泊客に用意せれているネスレ社のミネラルウォーターと西湖龍井茶の代わりに、習氏が好きだというので、中国ではポピュラーなミネラルウォーターである「農夫山泉」と河南省が産地の緑茶「信陽尖茶」を用意したというのが、「特別扱いといえば、特別扱いに当たる」とホテル関係者は語っている。
あまりの質素、倹約ぶりにホテル側では「驚きを通り越して、呆れてしまった」(地元紙)というほどだ。
一方、習氏は福建省での勤務が20年以上と長いが、福建省時代の習氏をよく知る台湾人ビジネスマンによると、「習氏は他の幹部とは違って公私混同することなく、賄賂を要求されたこともなかった」と話している。
このビジネスマン氏は「習副主席以外の福建省幹部と商談をする場合、会場は例外なく高級レストランか、一流ホテルのレストランの個室だった」と語るが、習氏の場合は、ほとんどが福建省政府庁舎内にある職員食堂で、お茶を飲むか、一般の省政府職員と同じ質素な定食を食べながらの“ビジネスランチ”が主だったという。
このビジネスマン氏が何とか習氏に食い込もうと、休日に習氏の自宅に押しかけたところ、習副主席は「ビジネスの話は職場でするものだ」とビジネスマン氏を怒って追い払ったというほどだ。
習氏が福建省党委副書記時代の1999年、福建省アモイ市を舞台とする中国史上最大といわれる汚職事件が起き、省幹部のほとんどが関わっていたといわれたが、習氏だけは例外だったというのもうなずける話だ。
とはいえ、中国人は派手好きのため、市民の習近平評は「面白みがなくて、つまらない人」というものが多いのは事実。習氏が来年秋の第18回党大会で、予想通り党トップの党総書記に就任した際、市民がどのような反応を示すのか興味深いところだ。
※週刊ポスト2011年12月16日号