年賀状による新年の挨拶は、社会に深く根を下ろした行事として今に伝わる日本独特の文化である。流れるように筆を走らせた武田双雲の右手から生まれた文字は、本来「龍」からイメージする神々しさや力強さは抑えられ、しなやかで楽しささえ感じる書となった。その姿はまるで、世の平穏を願う「鶴」のようにも見える。
「年賀状は、『つながってくれてありがとう』『連絡できなくてごめん』など、いろいろな気持ちが込められるもの。普段会えない人にも挨拶ができるし、ビジネス面ではコミュニケーションの手段としても使えます。僕は目標を有言実行する“夢の宣伝ツール”にしたこともあります」
と、武田氏。自身は書道家ながら筆不精と語り、年賀状は毎年50枚程度に絞って手書きするという。
「多くの人に書こうと思うと、負担に感じてしまう。だから、相手を絞って心から書きたいと思う人に書きます。するとエネルギーが高まる。心を込めて書くと自分の心も豊かになります」
言葉は『賀正』や『おめでとう』などの定型文には頼らず、相手によって言葉を選ぶため、想いは直球で伝わる。手書きをするなら字の上手い下手は気にせず、文字を遊ぶくらいの気持ちで書くとよいとアドバイスしてくれた。
「どんな字も個性。印刷だけの文字より味があり、相手はなごみますよ。手書きは文字を届けるだけでなく、書く人の想いも一緒に届けてくれるのですから」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2011年12月16日号