ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる本誌伝統企画「覆面官僚座談会」。橋下徹氏率いる「大阪維新の会」が勝利した大阪のW選挙について官僚はどう考えたのか?
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常軌を逸したメディアのネガティブ・キャンペーンをはねのけて大阪選挙に圧勝した橋下徹・大阪市長の勝利宣言は、真っ先に官僚に向けられた。
「市役所の職員は政治に踏み込みすぎだ」
そのうえで今選挙の意味を明快に総括して見せた。
「民意が役所の主張ではなく、われわれを選んだ」
戦後、旧内務官僚がつくった地方自治制度は、「自治」とは名ばかりで、中央集権を強化するシステムだった。現在も全知事の4分の3にあたる34人を官僚出身者で占めている。中央政府が知事を任命した戦前の“官選知事”の時代に逆戻りしたかのようだ。
野田政権の「官僚支配」が日本の地方自治に露骨に現われているのである。大阪W選挙では役人たちが民主、自民という既成政党を操って橋下氏を「独裁者」と批判した。しかし、有権者は、政治的に中立で民に奉仕すべき公務員が政治の領域に介入する姿勢こそ越権だと見抜いた。
それゆえに、W選挙の結果は一地方にとどまらず、中央政界を震撼させ、国のありかたの根幹を揺るがす。
前回の座談会では、官僚たちは「官僚主導政治」に対する国民の怒りを怖れる本音をのぞかせた。「大阪の乱」でそれがついに現実のものとなった。
総務省のベテランC氏が即座に応じた。
「最初は橋下氏をしょせんトリックスターだろうと見ていた。今春の統一地方選では、古色蒼然たる保守系の地方議員に『大阪維新の会』というたすき一本を掛けさせるだけで府議会過半数の地方政党を立ち上げた。そこまでは追い風の勢いだ。
だが、市議選でも第一党を得ながら、過半数に届かないと敗北を宣言して他党に協力を呼びかけたことで見方が変わった。政治経験が浅いのに、『政治は数』であり、1議席でも足りなければ負けなのだ、と割り切り、戦った相手との合意形成を求める現実政治家のしたたかさが垣間見えた」
「中央集権の本丸に乗り込まれた総務省のCさんから意外な言葉を聞く」と、経産省中堅B氏が割り込んで先を促した。C氏が続ける。
「官僚にとって厄介なのは、彼が名より実を求めることだ。大阪の地域行政に実権があるのは府知事ではなく大阪市長だとわかると、リスクを取ってすぐに転身を図った。わが省の連中は大阪都構想や教育基本条例など橋下氏の政策の細かな不備を突こうとしているが、的外れだろう。彼は間違いとわかれば大胆な修正を厭わないはずだ。勢いのある政治家の周りには人も知恵も集まるから、政策の修正など簡単にできる。実より名を求める民主党の政治家の方がやりやすい。総理や民主党の若手リーダーたちよりよほど手強い」
「それは潰し甲斐のある相手ですね」と語る財務省中堅A氏の目は笑っていない。
※週刊ポスト2011年12月16日号