欧州債務危機の拡大懸念が強まっている。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに続き、イタリアとスペインの国債も利回りが7%(財政運営が難しくなる“危険水域”とされる水準)近辺で高止まりしているのだ。PIIGS揃い踏みである。だが、このうちイタリアの経済は、実は悪くないと指摘するのが大前研一氏だ。以下は大前氏の解説である。
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イタリアは、表面上は経済成長率が2008年マイナス1 .32%、2009年同5.22%、2010年1.30%と低迷しているが、“地下経済”は好調なのだ。イタリアの場合、経済の3割は地下経済が占めている、といわれる。
マフィア的な裏社会や金持ちの所得隠しだけでなく、一般市民も仕事を掛け持ちし、夜間や休日のアルバイトはたいがい無申告で脱税しているのだ。働く側は所得税や年金、保険などを払う必要がなく、雇う側も正規雇用よりコストが安くて済むからである。
この3割の地下経済、いわば“隠れGDP”を表に炙り出せばよいのである。たとえば、インドネシアのスリ・ムルヤニ前財務相(現在は世界銀行専務理事)が行なったように、過去の脱税は1年以内に正直に申告すれば罪を問わないが、それ以降に見つけたら厳罰に処す、という“刀狩り政策”を打ち出せば、地下経済が一気に表に出てくる。
そうするとGDPが3割増えるから、いま対GDP比120%に達している国家債務が「120÷130≒0.92」で100%を下回り、財政は非常に安定する。もちろん炙り出された部分への課税も歳入増に貢献する。
このように、実際は経済がそれほど悪くないイタリアにも伝播するところに金融危機の怖さがある。もし、このまま放置してイタリアがデフォルト(債務不履行)に追い込まれたら、アイルランド、スペイン、ポルトガルが瞬時に破綻し、さらにイギリス、フランスへと波及するのは避けられない。
すでにフランスは国債の格下げが懸念されている。ドイツまで飛び火することはないと思うが、一人好調だった同国経済もEU圏内の取引が多いためか、9月の鉱工業生産指数が前月比マイナス2.7%と、陰りが見え始めている。もしフランスまで伝播したら、さしものドイツも、その重みに耐えきれないだろう。
※週刊ポスト2011年12月16日号