欧州債務危機の拡大懸念が強まっている。欧州各国は、どんな手を打てばいいのか。かつて米国で起きたリーマン・ショックの時のケースを例にとり、大前研一氏がそのポイントを解説する。
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私は2008年のリーマン・ショックが起きた際に、金融危機が次々に飛び火する現象は英語の「ウルフ・パック(狼の群れ)」という比喩が最適だ、と述べた。
ウルフ・パックは餌を獲ることができなくて飢え死にしそうになると、最も弱った1頭を他の狼が襲って共食いをする。つまり、群れの中で少しでも弱みを見せたら、その瞬間に仲間に襲われる、という状況を意味している。
金融危機はそれと同じで、一つの問題が解決しても、集団不安心理によって「次はどこか?」となるから、どこまで行っても切りがないのである。
では、どうすべきなのか。最初に弱った1頭、すなわち最初に債務危機に陥った国を圧倒的余裕をもって救わねばならない。なぜなら、それが一番ダメージが少ない救済策だからである。
たとえば、リーマン・ショックの時、アメリカ政府はリーマン・ブラザーズを潰してしまった。その結果「次はどこか?」という疑心暗鬼が広がり、保険世界最大手AIGへの公的資金注入、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディーマック(連邦住宅貸付抵当公社)の実質国有化などで莫大な資金が必要になった。それよりは最初にリーマン・ブラザーズを救っておいたほうが、はるかに安く済んだはずなのだ。
また、1997~1998年のアジア通貨危機は、タイからマレーシア、インドネシア、韓国、ロシアへと波及し、韓国はIMF管理になってロシアはデフォルトした。金融危機は、飛び火すればするほど火の手が大きくなっていくのである。
欧州債務危機も同様だ。金融危機の第一フェーズは流動性危機(資金不足)である。国家の場合も、ある期限までに必要な資金が入らないと、国債の償還・利払いや国家公務員の給料の支払いなどができなくなってデフォルトに至るわけだ。
※週刊ポスト2011年12月16日号