『家政婦のミタ』の瞬間視聴率が30%を超える一方で、10%台を右肩下がりで急降下中の『南極大陸』。同じく大物俳優を起用した2つのドラマが、これほど明暗をはっきり分けたのはなぜなのか。その秘密を、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析する。
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松嶋菜々子主演のドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系、毎週水曜午後10時~)がぶっちぎりの快進撃。瞬間視聴率が30%を超え、大きな話題になっています。
それにしてもいったいなぜ、このドラマが、ここまで多くの人の興味を惹きつけるのでしょうか。
まるでロボットのように無表情、一秒も遅れずにやってきて指示を完璧にこなす。命令されれば殺人未遂ともいえるような極端な行為まで、淡々と実行する家政婦のミタ。
そのとんでもないドラマ設定と、とんでもない人物像を、揺るぎない力で演じきってしまう女優・松嶋奈々子。その姿を視聴者はあっけにとられて眺めている……。そんなところでしょうか。
しかし、あえて同時期に放映中の大型ドラマ『南極大陸』と比較してみれば、その特徴が際立って見えてきます。
『南極大陸』と『家政婦のミタ』。
まず、主役はいずれも、誰もが知っている大物俳優。キムタクと松嶋奈々子は、年齢もほとんど重なる30代後半。つまり、若さだけで注目されるアイドルではなく、にじみ出る人生経験で勝負する中堅世代です。
では制作費は? 極端な差がありそうです。
『南極大陸』はTBS開局60周年大型企画で、1本約1億円。かたやミタは、ロケもほとんど無く、3000万円程度と実に節約倹約型。
それなのに、視聴率はご存じのように残酷なほどくっきりと分かれています。『南極大陸』はぐんぐん右肩下がりで、10%台を急降下中。ミタは右肩上がりで30%台に届く勢い。
どうして、こんなにも差が出たのでしょうか?
一言で言えば、『南極大陸』は同情を売り物にしたドラマにしか見えません。南極観測のために命をかけた男たちがこんなに大変だったとか、犬たちがかわいそう、といったお涙頂戴路線。いわば苦労話の押し売りの印象です。
どんなにキムタクが大声を張り上げてたいへんさを叫んでも、3.11を経験してしまった私たちには、現実の出来事の方が何倍も過酷で苦悩に満ちて映る。ドラマから「同情」を強要されても、視聴者には響かなかったのです。
一方、『家政婦のミタ』は、母を失った子どもたち、不倫していた父親、バラバラの家族が背景のドラマ。そして、苦しい過去を背負い、孤独で笑うことさえ禁じられたミタ。すべてが崩壊から出発しています。
表情ひとつ崩さず徹底的に鉄面皮のミタは、いわば現実のシビアさを象徴している。そのどん底から、ひとつひとつ生きることを再生していくドラマ。
ミタが、少しずつ、怒り、泣き、表情を見せ始めるプロセスを、視聴者は共感し、共有しながら、その「再生への力」を分かちあおうとしているのです。
最終回まで残りわずか。いったいどの瞬間で、能面のミタの顔に「ほほえみ」が蘇るのか。その時を、何千万人というお茶の間の視聴者が、固唾をのんで待ち受けているとすれば……。
『家政婦のミタ』の連続ドラマのプロセスは、日本人の心の復興・再生と重なりあい響きあっている。だからこそ、ぶっちぎりの高視聴率を獲得しているのではないでしょうか。