日本経済が苦しい状況に追い込まれてくると、新聞を賑わすのは「景気対策」という言葉だ。その単語について東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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「景気対策」には、さまざまな変化形がある。もっとも、なじみがあるのは円高対策だろう。
対策という言葉には「経済がこんなに大変なんだから、政府はしっかり対応してくれ」という響きがある。もちろん、それで間違いではない。
ところが政府にばかり注文をつけていると、もっと大事な役者を見逃してしまう。それは日銀だ。日銀は金融政策の失敗を通じて日本経済の20年にわたる停滞に責任を負っている。
逆に言えば、日銀が適切な政策をすれば、経済活性化にも大きな役割を果たせるのだ。マスコミはそこをしっかり監視しなければいけない。ところが、どうも不十分なのだ。
たとえば、政府は10月21日に「円高への総合的対応策」を閣議決定した。これは本文と別紙で計14ページに上る文書だが、そこに日本銀行という文字はたった一回しか登場しない。なんと書かれているかと言えば「日本銀行に対しては、政府との緊密な情報交換・連携の下、適切かつ果断な金融政策運営によって経済を下支えするよう期待する」とあるだけだ。
円高とデフレはコインの裏表の関係にある。日銀の金融緩和が欧米に比べて不十分なので、相対的に円の価値がドルやユーロに対して高くなる。国内でも一万円札の価値が上がって、物やサービスの値段が安くなる。これが円高とデフレの正体である。
だから本来「円高対策」というなら、真っ先に日銀に金融緩和を求めなければならない。それなのに政府の及び腰姿勢が新聞にも伝染している。
政府に尋ねれば「日銀の独立性を尊重しているからです」という理由が返ってくるだろう。金融政策は日銀の専権事項なので、政府が高飛車に日銀に注文をつけるのは控えるという話だ。だが、それは建前にすぎない。
財務省の本音は「日銀はそこそこ緩和しているふりをしていればいい」と思っている。なぜなら本当に効き目のある緩和をして円高もデフレも脱却してしまえば、肝心かなめの増税があやしくなってしまう。それでは困るのだ。
日銀が本格的な金融緩和に乗り出して円高もデフレも解消すると名目成長率が高くなる。すると税収が増えるので、増税する理由自体がなくなってしまうのである。
かつて安倍晋三政権当時の2006年秋、一時的に景気が回復基調になって税収が増えた。すると財務省は経済産業省と図って大型補正予算の編成を企んだ。カネを余ったままにすれば増税ができなくなってしまうからだ。
本当は新聞が日銀にもっと金融緩和を要求しなければいけない。政府任せにしておけば、〇〇対策の名の下で予算を浪費するばかりで、いつまでたっても景気はよくならない。野党も拳を振り上げる相手は政府だけではない。日銀である。
※週刊ポスト2011年12月16日号