その後の動きは、まさに「死人に口なし」だった。
前・鳴戸親方(元横綱・隆の里。享年59)の急死は、弟子暴行問題で協会から処分される直前の出来事だった。死亡する数日前に親方は「俺がすべて泥を被る」と漏らしており、本誌は死の背景に来年の協会理事選や稀勢の里の大関昇進を巡る「鳴戸潰し」があったと報じた(週刊ポスト11月25日号)。
本誌予言どおり、親方が世を去ると状況は一変した。稀勢の里は条件を満たさない成績ながら大関に昇進し、鳴戸親方の出馬で混沌としていた理事選も候補者調整が粛々と進んでいる。暴行疑惑の解明は“被疑者死亡”で幕引き。協会側から見れば、すべてが丸く収まった状況だ。
皮肉なのは、親方が心血を注いだ鳴戸部屋が崩壊状態にあることだという。
「部屋付きの西岩親方(元前頭・隆の鶴)が名跡・鳴戸を継いだが、鳴戸株の実質的な持ち主はおかみさんなので発言権はゼロ。現役時代は前頭8枚目止まりだったので、稀勢の里や(元関脇の)若の里ら関取衆からナメられている」(相撲担当記者)
ついには稀勢の里が、「これからは出稽古に行くかもしれない」と発言。ガチンコで知られる鳴戸部屋では、「注射(八百長)力士と親しくなる」という理由で出稽古は禁止されていた。そんな親方の遺志が軽んじられ始めたのだ。部屋の後援者が嘆く。
「九州場所で十両に転落した若の里は、初場所で幕内に戻れなければ引退して鳴戸を襲名する予定。だが、稀勢の里が大関昇進で舞い上がっているようでは、部屋の先行きは暗い」
なお、糖尿病に苦しんだ前親方が使用し、「弟子にも投与していた」と報じられたインシュリンは、「いまだに部屋に保管されている」(同前)という。
※週刊ポスト2011年12月23日号