原発事故は、政府、東電、大マスコミによる原子力ムラの癒着構造を顕わにしたが、周辺の町村とは裏腹に、このムラはまだ栄えている。11月12日、福島第一原発(以下、1F)で事故後はじめてとなる取材陣の視察が行なわれたが、取材が許されたのは新聞・テレビの記者クラブメディアのみ。フリーやネット、雑誌の記者は排除された。
自分たちに都合のいい情報を載せてくれるメディアだけを選抜する政府・東電、事故後も彼らの言いなりを続けている記者クラブ。どちらにも呆れるほかないが、そうした大本営発表では見えてこない本当の現場を取材してきたのが、フリーライターの鈴木智彦氏である。
鈴木氏は、下請け企業の作業員として1Fで働きながら、週刊ポストで潜入レポート「僕は原発作業員」を連載し、12月16日にはそれらをまとめた『ヤクザと原発』(文藝春秋刊)を刊行する。
鈴木氏が見たものは、これまで東電が公開してきた余所行きの姿とは全く違う、作業員たちの素顔、現場の生々しい実態だ。鈴木氏はこう指摘する。
「新聞やテレビはいつまでも非常時のように1Fを報じますが、実際には事故処理は作業員たちの日常になっている。東電の案内で見学しても実態などわかるわけがありません。私のいた現場では、マスクを取ってタバコを吸う作業員もいたし、被曝線量が限度を超えると現場を外されるから、線量計を置いていく人も多かった。7月にIAEA(国際原子力機関)の視察があった日に、『今日からタバコは絶対ダメ』と厳命されてから、さすがに喫煙はなくなりましたが」
※週刊ポスト2011年12月23日号