欧州の債務危機が深刻化する中で頼みのアメリカ経済も回復軌道に乗り切れないいま、世界経済の牽引役として誰もが期待するのは中国経済だ。高い成長を続けて来た中国も足下では、インフレや不動産バブルといった不安材料を抱えており先行き不透明感が強い。加えて2012年には指導者の交代も控えている。政治と経済が密接に関わる中国株に精通するT.Sチャイナ・リサーチ代表の田代尚機氏に2012年の中国株を見通してもらった。
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このところ株価低迷やインフレに悩まされた中国経済だが、2011年後半、そうした懸念材料は、払拭されつつある。
まずは「インフレ」だ。CPI(消費者物価指数)の上昇率(前年同月比)は7月の6.5%をピークに10月には5.5%となり、ようやく当局のコントロールが効き始め、物価沈静化という方向感がはっきりしてきた。
なかでも寄与度が高かった豚肉や野菜などの食料品価格が下がってきたことが大きい。衣料品や家賃といった非食品分野が少し上がっているところは気になるところだが、経済政策を担う国家発展改革委員会の要人が「11~12月には5%を切ってくる」と発言しているように、この先インフレが沈静化に向かうのは間違いないだろう。
次に「不動産価格」である。依然、海外では「中国の不動産バブルは深刻で、いずれ経済に大きなダメージを与える」といった見方が根強いが、中国本土の研究者やアナリストなどにいわせると、「国務院は日本や米国の不動産バブルの成長と崩壊の過程を研究しているため、不動産市場はずっとコントロールされており、今後もそれは可能だ」という見方が支配的である。
実際、不動産価格の上昇は9~10月にピタッと止まり、すでに大都市圏では下がり始めているところもある。これまで政府は不動産価格の抑制策を次々と打ち出してきたが、ここ半年ほどは多くのデベロッパーが安売りしてまで販売しようとはしてこなかった。そのため、不動産価格上昇に歯止めがかかるまで時間はかかったが、これもまたコントロールできるようになったといえる。
そもそも中国は2008年11月から打ち出した4兆元もの景気対策をはじめとする一連の金融危機対策によって、世界でもいち早く立ち直ることができた。しかし、よく効く薬ほどは強い「副作用」があるように、中国経済はその後、激しいインフレや不動産バブルの懸念、株価急騰の反動などに悩まされてきた。
しかし、ここにきて、その「副作用」はようやく解消されようとしている。もちろん物価の鎮静化は需要の鈍化を意味し、経済が減速しつつある証拠でもある。だが、それは一方で政府がインフレ対策から解放され、積極的な経済政策を発動するためのトリガーにもなる。足元の状況から考えると、慣性に従って、今後景気がさらに悪化する可能性は高い。
そうなると政府は今後の政策をこれまでの「引き締め」から「微調整」「中立」、そして「緩和」へと変更していくことになるだろう。中国経済が再び成長路線に舵を切る日はそう遠くない。そして、それが株価の大きな反転につながることは想像に難くないだろう。
※マネーポスト2012年新春号