なるほど中国的というべきか。車に轢かれた2歳の女児の前を18人が素通りした事件の印象はいまだに鮮烈だが、その対策は罰則強化ではなく、親切心で近づいた人を守る法律になるという。いったい、どういうことか。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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車に轢かれた2歳の女児の前を18人が素通りするという痛ましい映像が話題を呼んだ「悦悦ちゃん事件」。この余波がいま中国に広がっている。
現場となった仏山市と同じ広東省の都市、深セン市では市の政治協商会議で、「悦悦ちゃん事件」が再現されないような条例づくりに着手するというのだ。
この作業の興味深いところは罰則の強化ではないところだ。実は通行人がなぜ子供を放置したのかという理由の一つに、「人助けをすると逆に災いに巻き込まれる」と人との接触を嫌う風潮が蔓延していたとされるからだ。
これは2006年から断続して起きた問題で、転んだ老人を助け起こそうとした若者が逆に「転ばせた加害者」と訴えられ賠償金を払わされるといったケースが相次いだからだというのだ。そのため条例では、親切心で近づいた人を守るための法律になるという。
また、中国お得意の啓蒙工作も始まっている。11月24日のCCTVは、数々の重要ニュースを押しのけ、江蘇省で交通事故に遭った一組の老夫婦を周囲の人々が世話をしたという映像をわざわざトップで伝えたほどだ。
11月1 日には中国倫理学会慈孝文化専業委員会が「5 年間で100万人の孝行子女を育てる計画」を打ち出している。
ここ数年、経済発展を享受してきた中国の道徳崩壊は深刻なようだ。