複数の企業が共同開発した「コラボレーション商品」は今や珍しくないが、さすがにこれは目を引く。12月5日にエースコックから全国発売された「産経新聞 それゆけ! 大阪ラーメン」である。新聞社が作ったカップ麺の味やいかに? 話題のニュースや著名人などに縁のある料理を紹介する「日本全国縁食の旅」。食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏が紹介する。
* * *
東京、札幌、博多、横浜、京都にあって、大阪にない。旭川、仙台、和歌山、尾道、徳島、鹿児島にもあるのに、大阪にはない。“新・ご当地ラーメン”として発売された「産経新聞 それゆけ! 大阪ラーメン」は、地元に明るい産経新聞大阪社会部記者のそんな気づきから生まれたという。
それにしても新聞社にも関わらず、即席麺大手のエースコックと組んでカップ麺を開発するとは、さすが紙面でも独自路線を突っ走る産経新聞! スーパーやコンビニなどの物流網に載せられるカップ麺を開発し、話題性とメディアパワーをいかして全国に情報発信するという斬新な手法も他社ではそうそう考えられまい。
しかし実は大阪にも「高井田系」という、ご当地ラーメンがある。全国レベルではまだマイナーな存在かもしれないが、その発祥は1950年代。現在でも、大阪市内と東大阪市を中心に十数店が軒を連ねている。
色の濃いスープと極太麺が特徴で、地元では知られた存在だ。「街おこし」や「ご当地」もので定着するのは長く地元で愛されてきたものが多い。地元住民の舌をうならせ、類似メニューを供する店舗が増殖し、切磋琢磨を繰り返すことで「ご当地グルメ」は定着してきた。「高井田系」愛好家からの反発を招く可能性もある。
外野から見ていると、無理に新聞社が「大阪ラーメン」を作る必要はないような気もするが、そこは未知なる地平を切り拓く産経新聞さんの心意気を感じ、まずは食べてみることに。「大人気で品薄」「記録的なヒット」という産経新聞の見出しに不安を覚えつつも、近所のコンビニに足を向けると、ファミリーマートに商品があった。
価格は190円(税抜)とカップ麺にしては、少々高級なお値段。縦長のパッケージのフタを開けると、粉末スープは既に麺にかかっているが、液体スープは別袋入り。液体スープを取り出すと、手に粉末スープが付着してしまう。お湯を注いで3分待ち、ドロリとした液体スープを注ぐとカップ内が濃い醤油色に覆い尽くされた。正直、ここまでの印象はあまりよくない。
ところが、一口すすってみて驚いた。意外と言っては失礼だがウマイ……。鶏ガラと昆布をベースにしたスープは、確かにコンセプトの「甘辛」味がする。麺と一緒にすするとほのかに感じる程度の甘味だが、スープだけを飲むと確かに甘辛い。しかも具材として加えられた、とろろ昆布や玉ねぎの麺へのからみ方によって味わいが一口ごとに変化する。
油で揚げたタイプの中細麺も、思いのほか油っぽさを感じない。正直、はしをつける前は味見程度で考えていたのが、あれよあれよという間に1カップ(367Kcal)を完食してしまった。肉やチャーシューが入っていないのは寂しい気もするが、味自体に説得力はある。
そういえば、前述した「高井田系」の真っ黒なスープも、ベースは鶏ガラと昆布。現在でも全国に流通する昆布の約6割は大阪の業者の手を介しているという。とろろ昆布といううどんでおなじみの具材が大阪人のノスタルジーを刺激する可能性もある。
今回の企画が打ち上げ花火で終わらず、さらなる展開があれば、このカップ麺は本当の「大阪ラーメン」の礎になるかもしれない。