アメリカと中国の間で翻弄され続ける日本外交。いま、何にその基軸を置くべきなのか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏がレポートする。
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今年11月30日、米国のクリントン国務長官が、ミャンマーを訪問しました。米国首脳の公式訪問は57年ぶりのことで、両国にとって極めて重要な関係の変化と言えます。本稿執筆時点ではまだ具体的な成果はわかりませんが、ミャンマーが民主主義へと大きく舵を切ろうとしていることは確かでしょう。
ミャンマーのテイン・セイン政権は、9月に中国による水力発電ダムの建設中断を表明しました。この計画に対してはミャンマーの環境破壊を引き起こすという国民の反対があります。その上に電力の9割を中国に送るという一方的な内容が国民の反感を買っていました。ミャンマーの新政権は、それ以前の軍事政権の親中国路線から一転して、米国との関係改善を模索し始めたのです。
ミャンマーは東南アジア諸国の中で最大の面積を有する国です。地下資源が豊富で、地政学的にも重要な国です。この国が民主化すれば、隣接するチベットやウイグルに大きな影響を与え、民主化革命が波及し、中国分裂のきっかけになるかもしれません。
中国の、軍事力を前面に打ち出すような恫喝外交に対する反発は強く、東アジアサミット(EAS)では、参加18か国中、実に15か国が南シナ海問題に言及。中国の事前の強い牽制にもかかわらず、主要な議題となりました。
アジア諸国が中国に堂々と反論する背景に、米国のコミットがあります。米国は明確に東南アジア諸国の側に立つ姿勢を見せています。オバマ大統領はオーストラリアに海兵隊を駐留させると発表したほか、インドネシアに最新型のF-16C/D24機を売却することも決めました。
米国はアジア太平洋でのプレゼンスを拡大する方針をはっきりさせ、「中国抑止」へと、アジア・太平洋諸国をまとめる形で、具体的に踏み出したわけです。
世界は、このように中国をめぐって緊迫した駆け引きを展開しています。日本にとっても、日米開戦前のように、重大な決断が迫られる「分岐点」なのです。
もちろん、日本が、中国の側に立つという「選択」はありえないはずです。
民主党政権では、鳩山由紀夫氏が「東アジア共同体」構想という、中国を利する方針を打ち出しました。菅政権は、尖閣諸島での海保巡視船への漁船衝突事件などで、弱腰姿勢が目立ちました。
私自身の野田佳彦首相への評価はまだ定まっていませんが、実質的にTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を表明したことは、「中国の側に立つ」のではないことを明確にした点で、正しい判断だったと言えます。国内の一部の世論におもねってポピュリズムに走り、TPP参加を見送っていたら、日独伊三国同盟へ突き進んでいったのと同じように日本は中国に引き摺られる形で再び「孤立」への道を歩みかねないところです。
しかし、TPP参加を表明したからそれで終わり、ではありません。中国をめぐる国際情勢の劇的な変化は、次々に起きていきます。野田政権はこの重要な岐路で、国益に適う「選択」をしなければなりません。
※SAPIO2011年12月28日号