北朝鮮の金正日総書記が死去したが、拉致問題と同様に、国境を越えた激しい情報戦が繰り広げられているのが、北朝鮮の核開発をめぐる攻防だ。中でも、日本にとって最大の脅威は、核ミサイルの配備であり、「新方式」による弾頭の小型化に関して様々な情報が飛び交っている。防衛問題に精通する潮匡人氏がレポートする。
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古今東西、危機管理の要諦は「最悪の事態を想定し、事前に準備せよ」である。日本としても、北朝鮮が核の小型化に成功して核弾頭が配備されたと想定し、準備せねばならない。課題は山積している。
北朝鮮は、「スカッド」から「テポドン2派生型」に至る各種の弾道ミサイルを保有している。それらに小型化された核が搭載されれば、直ちに運用可能な核兵器となる。
日本にとっての脅威として先ず弾道ミサイル「ノドン」がある。射程は約1300km。日本のほぼ全域が射程内に入る。「特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではない」(防衛白書)が、核が搭載されれば、命中精度は問題とならない。
さらなる脅威が、新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」である。金正日総書記と並んで「後継者」の金正恩・朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長らが閲兵した昨年10月10日の朝鮮労働党創建65周年の軍事パレードでは、このムスダンも披露された。
ムスダンはノドン同様、発射台付き車両(TEL)に搭載され、移動して運用される。射程約2500~4000kmに達し、日本全土に加え、グアムが射程に入る。韓国の『国防白書』も「射程3000キロ以上のムスダンを作戦配備したことで、朝鮮半島を含め、日本やグアム等の周辺国に対する直接的な打撃能力を保有」と指摘する。
ただし、ムスダンの「戦力化については、不透明な部分も残る」(防衛省防衛研究所『東アジア戦略概観』)。2010年12月1日付の米『ワシントン・ポスト』紙も「兵器として運用するには3年から5年はかかる」と報じた。
だとしても、今後ムスダンが戦力化されれば、深刻な事態が想定される。
何しろ、北朝鮮は全土に地下軍事施設があり「ムスダンを含むTEL搭載式ミサイルの発射については、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難である」(防衛白書)。
発射の「兆候を事前に把握することが困難」なら、発射前の破壊も、迎撃態勢を整えるのも困難となろう。
しかも、燃料の酸化剤に腐食性があり、燃料を充填した状態では比較的短期間しか待機できないノドンと違い、ムスダン燃料の酸化剤は腐食性が大幅に改善され、充?状態で長期間待機できるという。だとすれば、ムスダン発射の兆候を事前に把握することは不可能に近い。
仮に、通信傍受その他の手段で発射の兆候を把握できたとしても、現在のミサイル防衛技術では迎撃できまい。なぜならムスダンの射程が長いからである。もし北朝鮮が、通常の「ミニマムエナジー軌道」、つまり燃料効率的に飛翔し、射程を最大化する軌道に乗せれば、日本を飛び越え、グアムに達してしまう。
それゆえ、日本に着弾させる場合、より高い「ロフテッド軌道」をとる。より高く打ち上げれば当然、速度はより速くなる。現在のミサイル防衛網を突破する。簡単に言えば、落下速度が速すぎて迎撃できないのだ。
この脅威に対処すべく、日米は平成18年から「弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル」(SM3ブロックIIA)の「共同開発を開始するなど将来の能力向上に努めている」(防衛白書)が、まだ開発試作中であり、試験を経て運用段階に至るのは、平成26年度以降となろう。
以上は防衛省の予測でも「2010年代」に訪れる深刻な「将来脅威」である。ただちに共同開発を前倒しで進めるべきと考える。
※SAPIO2011年12月28日号