「世界でもっとも風俗が発達した国」「しかしそれでもセックスが弱いのはなぜ?」……我が国のセックス事情は世界中から様々な好奇な目線にさらされている。文筆家で女性用アダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」代表の北原みのり氏は、「日本のセックスはガラパゴス化してしまった」と指摘する。今日から三回連続でお届けする。
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1997年にバイブ屋を始めました。もう14年になります。
この業界に入った時は、ヤクザに絡まれたらどうしよう…と恐る恐る仕事していましたが、面白いくらいコワイ人たちには出会わなかった。もっと効率と割のいい仕事がヤクザにはあるんでしょう。代わりにバイブ業界で私が出会ったのは、家族経営の小さな問屋さんやメーカー。バイブで女を喜ばせたいと願うオジサンたちが地道にバイブを作っている姿でした。
考えてみれば、世界屈指のモーターの国ですもの。モーターの微妙な振動にコダワリを見せるオジサンたちは常に真剣でした。ブーブブブブッブー、ブブブ・ブブブ・ブブブッブー時にはバッハのような優雅さで、時には三三七拍子のような勢いで、新バイブを作り続けるオジサンたち。
はっきり言って、女はそんなのどうでもいいんですけどね。バイブなんか動けばいい。それより、ペニスなのかご神木なのか分からない、不気味な棒から生えてる民族衣装を着たジジイと、ジジイに寄り添い震える熊とか、そんなデザイン止めてくれよっ! というのがユーザーとしての女の本音というもの。
そう。オジサンたちの作るバイブは、気持ち悪すぎた。グロテスク過ぎた。意味が分からなすぎた。それでも、日本のバイブは、膣に入れる棒(爺が生えているご神木部分)とクリトリスを刺激する部分(熊)という画期的な二股構造を世界に先駆けて作ったため、「車といえば日本、バイブといえば日本!」と、世界的に定評があったのです。少なくとも私がバイブ屋を始めた15年前は。
ところが、2000年代に入ってから、ジャパニーズバイブの地位が、むちゃくちゃな勢いで下がり始めます。というより、世界でバイブの地位が上がりはじめた、という方が正しいかもしれない。バイブ=エログロ、ではなく、女性がセックスを主体的に楽しむ道具として、またはカップルがよりセックスを刺激的に楽しむためのトーイとして。ヨーロッパでは高級デパートや下着屋さん、コスメショップなどでバイブが売られはじめました。
またEU独自のCE規格(JIS規格みたいなもの)のないバイブは、EUでは売れなくなりました。家電並のデザインと家電並の使いやすさと安全性を目指したヨーロッパのバイブが、バイブの基準を変えたのです。
さて。そんな2000年代、日本のオヤジは何をしていたか、というと。オヤジながらにシャレ心を効かそうとはしていたわけです。ヨーロッパが高デザインで安心素材のバイブをつくれば、日本のオヤジは七色に光りながらうねる竜とか、敢えてドドメ色したぶっといチンコのグロテスクさとか、そんな独自路線での勝負をはかります。
バイブだけじゃない。老女の匂いがするローションとか、○○団地で盗まれた下着シリーズ(もちろん本当の盗品ではなく、メーカーの社員が新品のパンツにコーヒーのシミなど付けて制作する)とか、何十メートル先でもバイブする遠隔操作とかとか。
そして…気がつけば…日本のバイブは世界でまるで売れなくなっていました。あんなに一生懸命つくっていたのに! こんなにもエロが好きで、バイブを大切に考えていたのにっ! はっきり言って、ヨーロッパで日本のバイブなんて売ってない。「ジャパニーズバイブ」=「性能がいい」なんて時代、もうとっくに昔の話になってしまってる。
そう。ガラパコスはケータイだけの話じゃありませんでした。バイブの世界でも同じ。そして多分、もしかしたら、セックスの世界でも、私たちはガラパコス化してるかもしれない。
私たちのセックスは、もう世界で通用しない。それは、なぜ? そんなことを数回にわたって考えてみたいと思います。