北朝鮮の朝鮮中央通信は19日、最高指導者、金正日総書記が17日午前8時半ごろ、地方指導に赴く際、列車で移動中に急性心筋梗塞などにより死亡したと伝えたが、同通信は金総書記が15日、北朝鮮初の大型スーパーとして平壌にオープンした「光復通り商業中心(ショッピングセンター)」を視察したと報じていたので、そのわずか2日後に急死したことになる。
今後の最大の注目点としては、金総書記の後継者である3男の金正恩氏が権力基盤を固めることができるかどうかだ。
朝鮮中央通信によると、金正恩氏を中心に232人による葬儀委員会が結成され、28日に葬儀、29日には追悼大会を行なう予定だが、金日成主席の死亡時と同様、その後の3年間は服喪期間に入ることが予想される。韓国政府筋は「その3年間で、金正恩氏が後継体制を固められるかどうかが今後の朝鮮半島情勢を大きく左右するに違いない」と分析する。
金正恩氏は党中央委員と党中央軍事委員会副委員長に加え、軍の大将の肩書きも持つなど朝鮮人民軍が政治基盤の中心だ。それだけに、後継者に指名されてから、若手の軍将校を抜擢して軍中枢に側近グループを形成し、対南軍事作戦を策定し、軍事行動を計画しているとの報道が出ている。
朝鮮中央通信は11月24日、韓国軍が軍事演習を強化していることについて「青瓦台(韓国大統領府)を火の海にしてやる」と伝えており、これは金正恩氏の軍幹部側近グループが軍事行動を計画している徴候との見方がある。
金総書記の死去後の北朝鮮情勢に最も関心を向けているのは最大の援助国・中国だ。中国国営の新華通信社は19日、金総書記死亡のニュースを至急電で伝えたほか、平壌駐在特派員とソウル特派員によるそれぞれの国の情勢レポートを伝えている。
北朝鮮国内では経済が疲弊し食糧や日常必需品の不足などで市民の不満が高まっており、暴動が発生したり、中朝国境を越えて多数の脱北者が中国内に流入していることに中国政府は強い危機感を覚えている。
中国指導部は北朝鮮の核兵器開発を止めさせ、改革・開放路線を採用するよう金総書記に繰り返し進言してきた。金総書記が死亡する2日前の17日、“最後の公務”として視察したスーパーマーケット「光復通り商業中心」は中国資本によって建設されている。韓国政府の統一部の関係者は「この大型スーパーは金総書記が今年5月に訪中した際、江蘇省楊州市で視察した大型スーパー『華潤蘇果』をモデルしたもので、建設に当たっては中国政府から相当の資金援助があった」と指摘する。
中国指導部としては、ようやく金総書記が中国側の助言に耳を貸し始めた矢先だっただけに、突然の死亡はかなり衝撃的だったことは想像に難くない。
中国が最も懸念するのは金総書記の後継者である金正恩氏が側近の若手将校グループを使って、韓国に対し軍事行動を起こし、朝鮮半島が大動乱に陥ることで、そうなれば、中国国内に脱北者が殺到し、大混乱が生じることは必至だ。
中国軍の動向に詳しい北京の中国外交筋によると、中国人民解放軍の一部には軍事的に挑発的は行動を起こしかねない金正恩氏よりも、金総書記の長男で、現在中国に住むなど、中国政府の事実上の庇護下にある金正男氏のほうが後継者にふさわしいとの見方があるという。
「中国指導部は今後、金正恩氏の行動を慎重に見守り、正恩氏の軍事的挑発行為などで朝鮮半島情勢が悪化、中国にも大きな影響を与えかねないと判断すれば、正恩氏に代わって、正男氏を担ぎ出す可能性も否定できない」と同筋は指摘している。