ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる本誌伝統企画「覆面官僚座談会」。今回は週刊ポストがスクープした駐クロアチア大使のセクハラ問題から議論が始まった。
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日本ほど統治しやすい国はない――。政治家も官僚も、そうたかをくくっている様子がありありと見える。
野田政権は、復興増税を名目にした所得税と住民税の引き上げに続いて、消費税率のアップ、さらに地球温暖化対策税(環境税)まで創設すると言い出した。世界にも類がない<同時多発増税>を国民に強いようとしている。物言わぬ国民はそれを受け入れるだろうと考えているのだ。
国民のガバナビリティ(被統治能力=従順さ)が高いと政治家や官僚は堕落するといわれる。この国の政治のだらしなさも、官僚の独善も、国民は従順だと思い込んでいることに原因があるのかもしれない。
田村義雄・駐クロアチア大使(64)のセクハラ事件――。
財務省の大物OBである田村氏の“国を代表しての破廉恥行為”は、野田政権下で「官僚主導」を復活させ、政治家を操って思い通りに大増税に臨もうとする財務官僚たちに「驕り」と「隙」が生じていることをはっきり物語る。
今回の座談会は、前号で事件を聞かされた官僚たちが凍り付いた場面から始めなければならない。
「薄々は知っていたんだろう」――経済産業省中堅のB氏が財務省中堅A氏にそう水を向けた。
「事実だとすれば、はっきりクビを切った方がいい」――A氏がいつになく厳しい口調でそう言い切った。
「同感だ。Aさんの口からはいいにくいだろうが、勝栄二郎・事務次官以下、財務省の後輩たちがどんなに苦労して消費税の大改革をやろうとしているか、田村さんも知らないはずがない。この年末年始は与党の議論集約、通常国会への法案提出という正念場を迎えるだけに、不祥事発覚は躓きの石になりかねない。田村さんの“本籍地”は今も財務省だから、おそらく財務、外務両省の官房長が話し合って、大使退任後は財務省が再就職の面倒を見ることで話はついているはずだが、本音で庇いたいと思っている官僚はいないだろう」
そう語ったのは総務省ベテラン官僚C氏である。
――野田内閣は大使を不問にしようとしているし、国会も大メディアも事実解明に及び腰だ。本当は「責任を問われない官僚」の特権復活を喜んでいるんでしょう。
「外務省が傷口を広げないように事態を収拾したいのはわからないではないが、省内の不祥事を隠す手法は外交では通用しない。クロアチア政府も事件を知っているなら国民の手前、黙ってはいられなくなる。これは政治の領域。最初に総理や大臣の判断で白黒つけておかないと、外交的に波紋が広がってからでは手遅れになる。国民やメディアも海外世論には敏感に動かされる。週刊ポストは霞が関の痛いところをよく知ってるな(苦笑)」(総務C)
「官邸にはそんな余裕はないでしょう。ついに世論調査で不支持率が支持率を上回ったことに深刻になっている。総理側近が、ある民放キー局に『正月のバラエティ番組に総理をサプライズ出演させてくれないか』と打診して断わられたそうだ。政策を地道に実行するといいながら、支持率回復のためにバラエティ番組に頼る発想はセコすぎる。とてもコトを荒立てて大使の処分など決断できるはずがない」(経産B)
※週刊ポスト2011年12月23日号