ジャーナリスト・武冨薫氏の司会&レポートによる本誌好例企画「覆面官僚座談会」。呼びかけに応えた官僚は財務省中堅官僚のA氏、経産省中堅のB氏、総務省ベテランのC氏、厚生労働省若手のD氏だ。今回は最近の財務省の若手官僚の行動がやりだまにあがった。
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経産B:(Aを向いて)ひとつ、ご忠告申し上げたいことがある。
財務A:それは有り難いですね。
経産B:最近、財務省の若手の遊び方がいささか派手になっているんじゃないか。「情報収集の特命」を帯びているらしいが、民主党の若手議員と夜な夜な銀座や六本木に繰り出しているという情報が入っている。情報収集や国会対策の一環のつもりだろうが、付き合っている相手の筋が悪い。
厚労D:わが省は(年金問題などで)それどころではないから、うらやましい。
財務A:(ムッとして)筋が悪いとは穏やかな言い方ではないよ。わが省は政治家やマスコミを含めて、霞が関の情報活動をほぼ一手に引き受けているという自負がある。彼らは夜遅くなっても報告に戻ってくるし、節度はわきまえている。
経産A:若手の財務官僚たちを代わる代わる飲みに連れ歩いている中心人物は、野田総理に近い民主党若手議員だが、議員相手だけなら六本木で飲もうがカラオケに行こうが、目くじら立てるつもりはない。問題はスポンサーだ。そのうちの一人は「総理の後援者」を吹聴し、総理が初入閣で菅内閣の財務大臣に就任した時、銀座で「財務大臣 野田佳彦」の名刺を配り歩いたことで知られる人物。財務官僚が大好きで、彼の事務所には財務省の若手が入り浸り、銀座にも同行している。そのカネはどこから出ている?
財務A:ちゃんとワリカンにする内規があるよ。
――財務官僚といってもヒラの若手は自腹で銀座をハシゴするほど高給取りじゃない。それとも秘密の「財務省機密費」でもあるのか。
経産B:財務官僚に接近しているのは、官僚人脈を誇示して大手企業に口利きするためだ。その人物は商社やメーカーに「総理とのパイプ」と「財務官僚をいつでも紹介できる人脈」を警戒もせずに売り込んでいる。脇が甘いから財務省に直接ビジネスの陳情をしているんじゃないか。
総務C:Bさんがはっきりいってくれたから、私も隠すまい。若手は相当派手に遊んでいるようだね。内調からも「目に余る」と情報が入っている。議員のツケ回しは知ったことではないが、官僚の不祥事は避けてほしい。かつて官僚批判を巻き起こした官官接待事件も、最初は「論際」問題(※)がきっかけだった。ノーパンしゃぶしゃぶ騒動を知らない世代だけに、接待に警戒感がないんじゃないかと心配している。
経産B:他にも民主党で最近派手なのがカジノ議連の政治家の一部。党内に正式にカジノ検討のワーキングチームを発足させて解禁の旗を振っている。財務省出身の若手議員が目立つが、財務省の若手はその議員とも飲み歩いている。財務省がカジノ解禁をバックアップしているのかね。
財務A:よくいうよ。一番の推進派は経産省だろう。
総務C:カジノ推進の遊戯具メーカーは各省がなんとか天下り先にしたいと狙っている。
経産B:接待にいったん取り込まれると、女性の世話やホテルの部屋まで用意してくれる。官僚接待全盛期は、各省とも関連業界へのツケ回しで一流ホテルに「仮眠用」として部屋をいくつも押さえて自由に使っていたのと同じだ。すでに取り込まれている者もいると思う。本当に危ない。
総務C:財務省OBの田村クロアチア大使のセクハラ事件に続いて、若手官僚たちの接待問題まで発覚したら、消費税増税どころか官僚批判の悪夢の再来になる。それを「官僚主導」の結末にしてはならない。
※「論際」問題/書店等で市販されない雑誌『論際』に各省のエリート官僚と大メディアの政治部記者が登場し、高額の謝礼を受け取っていた問題が1992年に発覚。大蔵省が同誌を大量に買い上げていたのをはじめ、同省幹部が企業にも購入を斡旋するなど政・官・財・報の癒着の接点となっていた。国会でも追及され、官僚接待が問題化する端緒となった。
週刊ポスト2011年12月23日号