日本の拉致被害者の名前が記載された北朝鮮の平壌住民名簿が流出し、物議を醸している。日本の一部新聞は、過去にも「3億円で名簿を買い取らないか」と、高額で売りに出されていたと報じた。これは「拉致情報ビジネス」ともいえるものだが、その実態はどうなっているのか。朝鮮半島情勢に詳しい辺真一氏がレポートする。
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悪徳商法の極めつけは2005年1月のニセ写真事件である。拉致された疑いが濃厚とされる日本人男女2人について、ある脱北男性が北朝鮮で撮られたとされる写真を日本のテレビ局に提供。持ち込まれたこの写真と2人の昔の写真を都内の歯科大学の専門家が鑑定し、男性は「同一人物とみて差し支えない」、女性は「同一人物の可能性が高い」と中間報告したため大騒ぎになった。
ところが、テレビで公開された写真を見た脱北者が「これは私だ」と名乗りを上げたため、インチキ写真であることが判明。写真提供者の脱北男性は「金欲しさにニセモノを渡した」と告白している。この男性が人道問題を金儲けの道具にしていたことは「日本人拉致被害者が北朝鮮で死のうと死ぬまいと私には関係ない」などと話していることからも自明だ。
今、韓国にいる脱北者は約2万1000人。最初に政府から一定の定着資金をもらうが、商売のやり方を知らない人がほとんどで、北朝鮮で学んだ知識や技術は韓国でほとんど役に立たず、またたく間に困窮してしまう。そんな彼らの一部が目をつけたのが、情報を捏造して日本のマスコミに高く売りつける「拉致情報ビジネス」なのである。
彼らは日本のマスコミを完全になめている。
「多少嘘をついても、誇張しても、分かりはしない。所詮、裏が取れない話なのだから」と開き直っているのだ。先に紹介した事例は氷山の一角にすぎない。
こうした拉致被害者の家族、ひいては日本国民を愚弄する「拉致ビジネス」の横行は言語道断で許しがたいが、彼らの捏造情報を精査、検証することなく垂れ流す日本のマスコミにも相応の責任があることを指摘しておきたい。
※SAPIO2011年12月28日号