いまだ出口の見えない欧州の金融不安だが、「これ以上危機が拡大することはないだろう」と予測するのは、経済アナリストの森永卓郎氏だ。森永氏が欧州金融不安の本質について解説する。
* * *
世界経済の先行きを占う上で、一番の懸念材料だった欧州の金融財政危機は、EU首脳間の包括的合意により、いったんは収束に向かう機運が高まってきました。私はこれ以上、危機が拡大することはないと見ています。
それを理解するには、ギリシャに端を発した欧州危機の本質を見極めなければなりません。たしかに2009年秋の政権交代で、GDP(国内総生産)比4%程度とされていた財政赤字が、実際には約13%だったことが判明したギリシャに問題があったことは事実です。
そこで、新政権は、財政赤字をGDP比3%以下にする財政健全化計画を発表したのですが、にもかかわらず米国の格付け会社がギリシャ国債の格付けを大きく引き下げた。その結果、国債が暴落し、資金調達ができなくなったギリシャは財政危機に追い込まれたわけです。
格付け会社は、それにとどまらず、さらにイタリアやスペインの国債にまで攻撃を仕掛けた。しかし、欧州の財政は本当はそれほど悪くないのです。OECD(経済協力開発機構)の経済見通しで、今年の基礎的財政収支のGDP比をみると、ユーロ圏全体では収支均衡で財政赤字を出していません。イタリアに至っては、2.3%の黒字なのです。
それに対して、日本は4.9%、米国は6.8%、英国は4.4%のいずれも赤字。本当に財政が悪化しているのは日米英で、欧州ではない。このことは、今回の欧州危機が、格付け会社をお先棒とする投機資本によって意図的につくられた危機だという証左といえます。
世界の投機資本は2008年のリーマン・ショックでボロボロになり、壊滅の瀬戸際まで追い込まれたのに、オバマ大統領は米国経済を救うためにドルの供給量を3倍に増やす莫大な金融緩和を行なったわけです。その結果、盗人に追い銭のごとく、生き残ったハゲタカ連中にも資金が回ることになり、次の獲物として目を付けられたのがギリシャであり欧州だったのです。
※マネーポスト2012年新春号