2011年年内をもってジャーナリスト活動を無期限休業する上杉隆氏が、権力とメディアの「官報複合体」に向け、最後の爆弾を投下する。政治記者たちが封印してきた「オフレコメモ」を、すべて暴露するというのだ。以下、上杉氏のレポートである。
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〈―今日の総理会見の感想は?
A:まぁまぁ。
――語りかけているのは向いていないようだが?
A:ああいうのは得意じゃない。
――菅総理が記者会見で(国会議員の)定数削減に言及したが?
A:今朝の公邸での朝食会で、「具体的なことを言った方がよい」と言った。私が指示した。これオフだよね(笑)。〉
〈――総理の演説はどうだった?
B:良かったんじゃない。両院総会の演説は良かったよね。〉
上から目線で首相の会見を評価してみせたこの二人。何を隠そう、枝野幸男・経産相と蓮舫・行刷相である。
Aは2010年7月30日に枝野氏が、Bは2011年1月24日に蓮舫氏が、ともに番記者たちを前にして首相会見の感想を語ったものだ。
だが、これらの発言は、一切翌日の紙面には掲載されていない。枝野氏が確認したように、「オフレコ」条件の取材だったからだ。彼らはそれで表の「事業仕分け」とは違う顔を、番記者たちに見せたのである。
では、記事に残っていないオフレコ発言を、なぜその場にいなかった私が知ることができたのか。これからその秘密を明かそう。
記者クラブメディアの記者たちは、官邸などで開かれる表向きの会見を速記すると同時に、政権幹部らによる「オフ懇」(オフレコ懇談)も記録に残す。オフレコといいつつ、実際にはICレコーダーに録り、書き起こしてメモにする。
そうして、「オン」「オフ」などと注意書きされたメモの集約が、キャップからデスク、政治部長、編集局長へと「メモ上げ」されていく。現場で取材もしない幹部たちが記事を書いたり、テレビで解説したりできるのはこのためだ。メモさえあれば、新聞やテレビの報道など誰でもできてしまう。
現在は禁止されているが、米国でも30年前まではこうしたオフ懇メモが存在した。ただ時代遅れには違いないが、日本のマスコミではこの程度なら問題とならないだろう。重要なのは、国民にはわからないところで、メモがもう一つ別の使われ方をしていることである。
メディアの幹部や中堅記者たちは、野党も含む各現場から上がってきた膨大なメモを、結果として官邸に「上納」しているのである。つまり、各メディアの取材メモは、すべて官僚の手元に渡っているということだ。
現場の記者たちがこっそり回していると信じているオフ懇メモも、当然、権力側は知っている。だから、政権幹部や官僚たちは、実際には録音されていることを見越してオフ懇で観測気球を上げたり、メモを見て与党議員や野党の動向を探ったりもしているのだ。しかもメモがあれば、どのメディアがどのように取材を進めているかも手に取るようにわかる。結果として、現場の記者たちは官邸の情報収集係として利用されているというわけである。
※週刊ポスト2012年1月1・6日号