年内にも予定される野田佳彦首相の中国初訪問が注目されている折も折、日米中関係が波乱含みの状況になっている。
南シナ海の領海問題に絡んで米政府が介入姿勢を強める中、オバマ大統領が来年からのオーストラリアへの海兵隊駐留を決めたほか、米国主導のTPP(環太平洋経済連携協定)構想に対し、中国内で「露骨な中国封じ込め政策だ」と警戒する声が強まっているからだ。この訪中で、胡錦濤主席は野田首相の取り込みを画策しており、場合によっては日中関係が再び大荒れになる可能性も出てきた。チャイナウォッチャーのウィリー・ラム氏がレポートする。
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北京の中国筋によると、オバマ大統領が11月中旬、海兵隊の豪州駐留を発表した直後、胡主席は中国共産党の対外政策を決める党外交指導小組(グループ)を招集。胡主席はTPP構想や海兵隊駐留について、「米国はアジアの覇権を狙っている。日本やアジア諸国による中国封じ込め政策の一環だ」とオバマ政権の対アジア政策に強い嫌悪感を明らかにした。
というのも、米海兵隊が駐留するのは南シナ海に面するダーウィンで、豪州の中でも中国と東南アジア諸国の紛争地帯に極めて近く、TPPに関しても現時点では「中国抜き」を前提としているからだ。インドネシアのバリ島で行なわれた東アジアサミットでは、温家宝首相の緊急提案によりオバマ大統領が米中首脳会談に応じたが、双方の言い分は平行線をたどり、却って対立が鮮明となった。
胡主席もAPEC首脳会議の際の米中首脳会談について、「オバマ大統領は中国に敵対意識をもっていた」と語り、人民元切り上げ問題や対中貿易赤字問題などが俎上に上ったことを明らかにした。この上で、胡主席は「米政府を牽制するため、米国の同盟国である日本を利用する方法がある」と述べ、外交、対外経済、軍事関係部門に新たな対日政策を立案するよう指示した。
同筋によると、中国側は日本政府が求めている東シナ海のガス田問題に関する交渉の再開や日本産農産物の輸入再開を受け入れる代わりに、民主党内でも慎重論が根強いTPP参加について再考を求めるとの条件を提示する方針だ。さらに、来年は日中国交正常化40周年であることから、双方の交流強化のほか、皇太子殿下の訪中が実現すれば、胡錦濤主席の訪日を議題に乗せることも検討するという。
しかし、日本側から明確な返答がない場合は、尖閣諸島(中国名・釣魚島)や沖縄周辺での海軍艦船を含む中国の艦船を頻繁に遊弋させるほか、海軍による軍事演習を強化するなどの報復措置をとる。
さらに、中国は友好国であるロシアや北朝鮮などの外交カードをフル活用する。メドベージェフ大統領が昨年11月、北方領土の国後島を訪問し、日本政府は激しく抗議したが、日本の出方によっては、中国は北方領土問題に関するロシアの立場を支持することも辞さない構えだ。さらに北朝鮮に関しては、日本政府が中国に対して拉致問題解決への協力を求めているものの、中国側は日本の態度を見極めたい考えだという。
中国では来年秋に5年に1度の共産党大会が開催されることから、胡錦濤政権としては日米など外交関係で波風を立てたくはないところだ。しかし逆に、日米連携での対中封じ込めが現実になった場合、「中国側は国内での不満をかわすためにも、対日批判勢力を焚きつけて、激しい反日デモを煽るとの選択肢も残している」と同筋は明らかにする。
TPP問題をめぐっては、党内での造反も予想され、支持基盤も固まりきっていないヨチヨチ歩きの野田政権にとって、交渉巧者の中国の攻勢をどこまで防ぎきれるか、「前途は多難」と言わざるを得ない。
■翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2011年12月28日号