現役を退いて数十年経つ今でも、野球への情熱は燃え上がるばかり。まだまだ若い者には任せられん! そんな球界の重鎮が日本のプロ野球にモノ申す。ここでは「フォークボールの神様」と呼ばれた杉下茂氏の主張を聞こう。
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最近の投手は猫も杓子も変化球を多投する。だが元来、変化球というのは速くて威力のあるストレートを投げられなければ意味がない。多彩な変化球を投げられれば一流のように思っているのかもしれないが、それは大きな間違いだ。
私は「フォークボールの神様」と呼ばれたが、フォークに固執していなかった。巨人の川上哲治さんを打ち取るために投げた「切り札」であり、実は1試合で5~6球も投げていない。
変化球よりも投手が優先すべきは直球、そしてコントロール。これに尽きる。相手を圧倒する球威があれば良いが、それがなくとも相手の弱点を丁寧に突く制球力があれば打ち取れる。変化球はあくまで、こうした本格派投手の特権なのだ。直球を疎かにして変化球を磨いても効果はない。
そもそも、気軽にフォークボーラーなどと名乗ったり、周囲が名付けたりしてほしくない。私の投げていた“本物のフォーク”はナックルボールのこと。回転せずに落ちる球で、今の選手の多くがフォークと呼ぶボールは回転して落ちるSFF(スプリット・フィンガー・ファストボール)、つまりはフォークの亜流だ。
フォークは蝶が舞うように左右に揺れながら落ちるので捕手がミットで追いかけていたが、今は捕手が追いかけたりしないことからも違いがわかる。私以外に“本物のフォーク”を投げていたのは村山実(阪神)や村田兆治(ロッテ)、野茂英雄(近鉄)、最近では佐々木主浩(横浜)くらいだ。
統一球の導入で投高打低になったといわれるが、それはボールだけの影響ではない。本格派の投手が少なくなり、打者も小手先だけのバッティングになってしまったことが影響していると思う。これも変化球多投の害悪だろう。
※週刊ポスト2012年1月1・6日号