この8月、ついに1900ドル(1トロイオンス=約31.1035グラム当たり)の大台を突破した金価格(ニューヨーク先物)は、一時1500ドル台まで急落、その後は1800ドル前後まで回復している。欧州の債務危機に抜本的な解決が見いだせない状況の中で、今後の金価格はどうなるのか、金のスペシャリストの豊島逸夫氏が占う。
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8月の米国債の格下げを機に1トロイオンス=1800ドルから1900ドルへと矢継ぎ早に大台を突破した金価格(ニューヨーク先物)は、9月下旬に一時1500ドル台まで急落。その後、短期的な乱高下を繰り返したものの、下値を切り上げながら、11月には再び1800ドル前後まで回復した。
一般的に「株は楽観論で育ち、債券は悲観論で育つ」といわれる。では、金はというと、「先進国の悲観論で育ち、新興国の楽観論で支えられる」というたとえがしっくりくる。
そこで先進国から見ていくと、ギリシャに端を発した欧州の債務危機が、ついにG7(先進7か国)の一角を占めるイタリアに飛び火。イタリア国債の利回りが危機的水準といわれる7%を突破するなど、予断を許さない状況が続いている。
現在のユーロ圏をイソップ物語の「アリとキリギリス」にたとえると、アリはドイツ、キリギリスはギリシャといえる。キリギリスはどう転んでも働き者のアリになれるはずがなく、そんな両者が同じ通貨を持つこと自体、根本的な無理があったのだ。今後、欧州経済を立て直すためにはもはや別居しかなく、ギリシャなどのキリギリス組を切り離すようなユーロの解体・分裂というシナリオが現実味を帯びるのではないかと見ている。
しかも問題はギリシャやイタリアだけではない。ドイツと並んでギリシャの債務危機を支えてきたフランスにも格下げの観測が出ているが、いつそうなっても不思議ではないというのが私の見方だ。そうなれば、欧州全体の信用が失墜し、さらなるパニックに見舞われることが予想される。
※マネーポスト2012年新春号