TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加と消費税増税。いま、日本を揺るがす2大問題だが、実はその前に論じるべき問題がある、双方の問題の対象となる「医療」分野を、日本の「おバカ規制」が歪めているのだ。政策工房社長の原英史氏が解説する。
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TPPは国際問題、増税は国内問題だが、双方において「医療」が主要テーマである。TPP論争では、反対派は「TPPに入ったら、国民皆保険をはじめ、日本の医療が崩壊する」と主張した。しかし、これは本質を置き去りにした議論だ。
医療費は年々膨張を続けている。つまり、TPPに入ろうが入るまいが国民皆保険は危機的な状況にあるのだ。だからまず、現に国民皆保険を脅かすものは何かを見極めなければならない。
それを見極めずに解決策の話に入ると「増税」あるいは「診療時の個人負担増大」「診療報酬引き下げ」といった“対症療法”の議論になってしまう。だが、やるべき“根治療法”は他にある。
例えば医療費膨張の要因として、「個人負担がタダ同然だから、軽い症状でも病院に行く人が多い」という見方があるが、利用者の側からすると「別に病院に行きたいわけでもないのに、無用に通わされる」と感じることも少なくないのではないか。
ソフトコンタクトレンズは典型だ。利用者は、「3か月(ないし半年)ごとの定期検査」を求められる。これは、規制で定まっているわけではないが、検査を受けないと売ってもらえないのが実態だ。
実は、このコンタクトの定期検査を保険診療の対象外とすることが一時議論になった。2006年度の診療報酬改定で、厚労省は「疾病に罹患していることが疑われないにもかかわらず、定期的にコンタクトレンズ装用者に眼科学的検査等を行うことは、保険給付の対象とはならない」(同省の06年2月公表資料より)といったん決定したのである。
ところが、その直後、同省は「疑義解釈資料」(2006年4月28日)なる文書で、「コンタクトレンズの装用者については……継続的な管理が必要であり、特にソフトコンタクトレンズについては、次回の受診日を指示しないことは一般的に想定されない」と示された。
わかりにくいが、要するに、
・原則は、「疾病の疑いがないのに定期検査を行なうのはダメ」だが、
・ソフトコンタクトでは疾病の疑いが必ずあるから、結局、保険対象になる、
ということのようだ。
たしかに眼に異常が生ずる危険はあるだろうが、例えば10年以上継続して使っている人にも機械的に「3か月検査」を求める必要があるのか?
画一的な定期検査で“ソフトコンタクトがあれば黙っていても客が来る”という既得権を守りたい医療機関側の思惑が働いているようには見えないか。
※SAPIO2011年12月28日号