日本には約50種類の税が存在する。なぜこんなに多くなっているのか。大前研一氏が、日本の税制の複雑さについて解説する。
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日本の税制は、複雑怪奇だ。いろいろな口実をつけて税金を作ってきたから種類が多すぎる。
たとえば、サウナ風呂や銭湯に行っても税金はかからないが、温泉に行くと「入湯税」(標準税額は1人1日150円)がかかる。野球やテニスやサッカーをしても税金はかからないが、ゴルフをすると「ゴルフ場利用税」(標準税額は1日800円)がかかる。その根底にあるのは「カネ持ちから取れ」という“ジェラシー動機”だ。つまり税務当局が、温泉やゴルフは贅沢だ、温泉に行く人やゴルフをする人は懐に余裕があるはずだから税金を取ってやろう、と考えたのである。
また、タバコには64.5%もの税金が課せられている。1箱410円のタバコなら264.4円が税金だ。同様にビールには42.9%、ウイスキーには24.5%の税金がかかっている。マイカーを持っていると自動車取得税、自動車重量税、自動車税を徴収されるだけでなく、ガソリンを入れるたびに1リットル当たり53.8円の税金を払わされる。
買う時にはこれらの他に消費税がかかる。これらもタバコ、酒、マイカーは贅沢だ、という発想に基づいている。つまり、何が贅沢で何が贅沢でないか、ということを役人が恣意的に決めているのだ。いきおい今はクルマ離れで、特に都会の人はマイカーを次第にやめている。
しかし地方に行けばクルマは必需品で夫婦で軽自動車一台ずつ、というのが標準である。トヨタも日産もたまらずに軽自動車に参入したほどだ。
あるいは、日本国内で東京都だけはホテルや旅館に泊まると「宿泊税」(宿泊料金1人1泊1万円以上1万5000円未満100円、1万5000円以上200円)が課税される。目的は「国際都市東京の魅力を高めるとともに、観光の振興を図る施策に要する費用に充てるため」だが、なぜ東京だけそんな税金を徴収されるのか、全く理屈がわからない。
要するに、日本の税制には「原理原則」が何もないのである。取りやすいところ、抵抗・反対が小さいところから取っているだけなのだ。
※『サラリーマンのための安心税金読本』(小学館)より