年金には、「空白の5年間」と呼ばれる問題がある。現在、会社員が加入する厚生年金は60才から支給がスタートする。しかし、男性は2013年度から、女性は2018年度からその支給開始年齢が徐々に引き上げられ、65才にならないと年金がもらえなくなる時代がやってくるのだ。
日本の民間企業のうち、希望者全員が65才まで働けるのは、全体の50%程度にすぎない。政府は、希望者全員を65才まで働かせることを企業に義務づける案を検討しているが、実現は遠そうだ。
支給開始年齢が65才となるのは、男性なら50才以下(2012年4月1日時点)、女性なら45才以下(同)の人だが、これらの人は60才の定年退職から、65才の年金支給開始までの「空白の5年間」をいかにして暮らすかに頭を悩ませている。また、今後は、その支給開始年齢を70才にまで引き上げる案も厚労省で一時検討された。
そんななか注目を集めているのは、年金の「繰り上げ受給」だ。年金博士として雑誌やテレビなどで活躍する社会保険労務士の北村庄吾さんが解説する。
「繰り上げ受給は、本来65才から始まる年金を早めてもらう制度です。年金事務所に申請することで1か月単位で早めることができます。最も早く年金を受け取る場合、60才からスタートすることができます」
60才からもらえば無収入の期間がなくなるため、老後の生活はひと安心…と思いきや、落とし穴もあるという。
「1か月早めるごとに、受給額は0.5%減ります。60才まで早めた場合、65才に比べて30%も減ります」(北村さん)
例えば、専業主婦が国民年金を65才から満額で受給した場合、月6万6000円となる。しかし、5年繰り上げて60才からもらうと月4万6000円。2万円も少なくなる。
「65才からもらい始めた場合と、60才に繰り上げてもらう総受給額(受け取る年金の合計額)を比較すると、75才8か月で逆転します。日本人の平均寿命は男性79才、女性は86才なので、繰り上げ請求をしてしまうと晩年、医療や介護が必要になったころにお金が足りなくなり、生活が苦しくなることも充分にあり得るのです」(北村さん)
一度繰り上げ請求をすると、取り消しや変更が一切できない。あわてて繰り上げ請求するより、老後の資金設計をしっかり立てて無年金の期間をやりくりするほうが、賢いということだ。
※女性セブン2012年1月5・12日号