TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加と消費税増税。いま、日本を揺るがす2大問題だが、実はその前に論じるべき問題がある、双方の問題の対象となる「医療」分野を、日本の「おバカ規制」が歪めているのだ。政策工房社長の原英史氏が解説する。
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無用に病院に通わされることは、いろいろある。例えば大病院で人間ドックを受診し、「要検査」と言われて再び病院に行くと、何時間も待たされた挙げ句、その日は医師の問診だけ。「検査は次回に」となったりする。
それでも、診療報酬表で定められた「初診料」がかかる。本人負担額はわずかに見えるが、健康保険からその2倍以上の診療報酬が支払われている。他のサービス業では到底考えられない“顧客対応”であり、工夫の余地はあるはずだ。
“従業員の扱い”の問題も指摘される。病院の勤務医の収入は、開業医と比べて平均5~6割程度。しかも夜勤などを含む激務。こうした待遇の悪さが医師不足を招き、医療の危機をさらに深刻化させる。
これらは、「病院経営」に問題があるから起きることだ。もし“経営のプロ”たちが病院経営に参入すれば、顧客満足度や従業員満足度を高めるため、様々な工夫ができるはずだ。
ところが、医療の世界には、株式会社は参入できない。しかも、医療法人の理事長は、原則として(都道府県知事の認可を受けない限り)医師か歯科医師でなければならない(医療法46条の3)。これは、「航空会社の経営者はパイロットでなければならない」と定めているようなものだ。もちろん優れた経営手腕を発揮する人もいるだろうが、「経営能力」と「業務上の免許の有無」は本来無関係だ。
また、医療費を減らす方法の一つは、検診機会の拡大だ。ところが、低価格で手軽に検診を受けられるようにと起業された「ワンコイン健診」サービスは、各地の保健所で規制の壁に阻まれている。
これでは、規制当局は、国民をわざと病気にかからせ、「医療」という利権のパイ拡大を図っていると思われても仕方ない。もちろんそれが医療費の増大につながるわけだ。こうした規制に手をつけない限り、どれだけ増税しても、医療はよくならない。
※SAPIO2011年12月28日号