最近は食事がおいしかったり、温泉がついていたり、娯楽も充実した老人ホームが全国に多数存在する。おいしい食事を心掛けるのは居酒屋チェーン・ワタミが運営する老人ホームだ。ワタミ会長の渡邉美樹氏が食にこだわる理由を解説する。
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美味しい食事がなぜ老人ホームで必要なのか。その理由のひとつは健康のためです。たとえば、ご高齢者様でも食べやすいミキサー食は、常食をミキサーに入れてどろどろの状態で出しますが、ワタミの介護では素材ごとにミキサーをかけてから味を調え、見た目を常食に近い状態にしたソフト食で提供しています。
ある時、ミキサー食が食べられずに身体を弱くした方が入居されました。はじめは体調が悪くて食べられないと思っていたのですが、ワタミのソフト食を食べられて、徐々に元気になられた。やっぱり、しっかり食べるには、美味しい食事を出さねばならないんです。
もうひとつの理由は、美味しい食事はご入居者様にとっての楽しみだということです。料理にはたくさんの楽しみがあります。待つ楽しみ、見る楽しみ、食べる楽しみ、食の思い出の楽しみ……。
ワタミの介護では1か月分のメニュー一覧表を貼り出します。いつ何が食べられる、ということを楽しみにしてもらうためです。たとえば秋が近づくと、何月何日、近くの漁港で朝一番に上がった生のサンマを入荷しますと予告する。または、松茸が入るから、こんな調理をしますと。ご入居者はそれにワクワクして、心待ちに過ごすことができる。それが日々の生活を豊かにしてくれるのです。
※週刊ポスト2012年1月1・6日号